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中学3年生の那須川天心に抱いた確信「当時から、明らかに“モノ”が違っていた」 カメラマンが惚れ込んだ“天賦の才”と知られざる素顔 

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長尾迪

長尾迪Susumu Nagao

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photograph bySusumu Nagao

posted2022/06/17 17:02

中学3年生の那須川天心に抱いた確信「当時から、明らかに“モノ”が違っていた」 カメラマンが惚れ込んだ“天賦の才”と知られざる素顔<Number Web> photograph by Susumu Nagao

2014年2月11日、中学3年生の那須川天心がプロデビュー前に実施したエキシビションマッチ。“神童”の才能はすでに萌芽していた

KO連発の快進撃、試合中に“トリケラトプス拳”も披露

 試合当日の後楽園ホールは超満員で、この試合は天心にとって初めてのメイン登場だった。ホール最上部にある南扉から客席を通って入場するのは、メインイベンターだけの特権である。彼はそれを楽しむかのように時間をかけて、ゆっくりとリングインした。

 だが、ひとたび試合が始まると入場の時とは一転し、一気に攻勢を仕掛ける。1R終盤にダウンを奪うと、2Rにも3度のダウンを奪い、見事RISEバンタム級のベルトを巻いた。試合後、セコンドの弘幸さんと目が合うと彼は小さく頷いた。「言った通りだったでしょう」と言わんばかりだった。

 この選手は、一体どこまで伸びていくのか。やはり、日本の格闘技界を背負う星の下に生まれた選手なのだ。現在の彼の活躍を見て、自分の目に狂いはなかったと思える。当時から、明らかに他の選手とは“モノ”が違っていた。

 天心の次戦は王者奪取から2カ月後に決まった。それは国内の強豪選手を集めた、8人による55kg級のワンデイトーナメントだった。彼は3試合すべてをKOで勝利。名実ともに、同階級で日本ナンバーワンの選手となった。今の天心を知っている人にとっては、この事実を当然と受け止めるかもしれないが。16歳の高校2年生が大人を相手に、圧巻の3試合連続KOで優勝したのだ。対戦相手は各団体の王者など強者ばかりである。それがいかに凄いことか、理解していただけると思う。

 その後も天心の快進撃は続いた。日本では対戦対手が見つからず、欧米やタイの選手との試合が多くなったが、KOを連発。試合中に“トリケラトプス拳”という漫画『グラップラー刃牙』シリーズに登場する構えを見せたこともあった。劇画の中にしか存在しない絵が、目の前で繰り広げられている。しかもそれはリアルファイトの最中なのだ。今でこそ“トリケラトプス拳”は彼を象徴するポーズになっているが、初めて天心がリングで披露したときの会場のどよめきは、現在も私の耳に残っている。

 我々の想像を軽々と超えていく彼の試合には、鮮やかなKO劇や勝負論だけでない、何が起きるかわからないロマンがあった。

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