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那須川天心のRISE卒業試合、“親子喧嘩”大苦戦の収穫とは? 6.19武尊戦「何が何でも勝つ」発言から読み解く、大一番の戦術

posted2022/04/17 11:01

 
那須川天心のRISE卒業試合、“親子喧嘩”大苦戦の収穫とは? 6.19武尊戦「何が何でも勝つ」発言から読み解く、大一番の戦術<Number Web> photograph by Susumu Nagao

4月2日にRISEでのラストマッチを迎えた那須川天心。同門の風音と対戦した

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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Susumu Nagao

「修羅場をくぐってきた天心でも、ああなってしまうんですね」

 RISEの伊藤隆代表も驚いていた。4月2日のビッグマッチ、会場は国立代々木競技場第一体育館。風音に判定勝利を収めた那須川天心だが、内容は苦戦と言ってよかった。判定2-0。つまりジャッジの1人は引き分けと採点したのだ。

 この試合は、ボクシング転向を控える那須川の“RISE卒業マッチ”だった。対戦した風音は、同じTEPPEN GYMの後輩。昨年、53kgトーナメントをアップセットの連続で制し、55kgに階級を上げての那須川戦をアピールした。

 その時の那須川は、風音に「100年早いよ」と言って笑っていたそうだ。あくまで風音は“身内”だった。ただその身内と闘うことにストーリー性があるとも考えていた。

相手コーナーから「そんなパンチ効かねえ!」

 実際に試合が決まると、那須川自身もこれまで経験したことのない状況に置かれた。風音のセコンドに、ジムの会長である父、那須川弘幸氏がつくことになったのだ。那須川会長にとっては、風音も愛弟子だ。

「史上最大の親子喧嘩」

 試合のテーマを、那須川はそう語った。人間としてもファイターとしても、自分のことを最もよく知っている者が“敵”に回る。それは那須川ほどの強豪にとっても厄介なことだった。彼の格闘技のルーツは、父親と2人での練習だ。だから一昨年、コロナ禍の「ステイホーム」期間にジムで練習ができなくても慌てなかった。少年時代にやってきたことに戻ればいいだけだったのだ。

 今回はそうはいかなかった。ゴングが鳴ると、いつもは自分の隣にいる人間の声が相手コーナーから聞こえてくる。

「そんなパンチ効かねえ!」

 息子のパンチが当たっても、那須川会長はそんな言葉を使って風音を鼓舞していたという。那須川はムキになっている自分を感じた。試合後、セコンドについた朝倉未来からも「力んでたね。気持ちは分かるよ」と言われたそうだ。

 逆に那須川会長の助言を受けた風音は、想像以上の健闘を見せた。

「そのまんまでした。言われた通り。やってることがハマってるのが分かりました」

 彼は試合をそう振り返っている。細かい駆け引きの差で敗れはしたが、やってきたことは間違っていなかった。だからこそ悔しい。

「もう負けるのは嫌です」

 そう言って取材陣の前でも涙をこぼした。

【次ページ】 特別な舞台だったからこそ、自然体ではなかった

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