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オリベイラの急死「選手には前に進もうと話しました」 …湘南は“過酷すぎた残留争い”をどう乗り越えたのか? 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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posted2021/12/06 17:02

オリベイラの急死「選手には前に進もうと話しました」 …湘南は“過酷すぎた残留争い”をどう乗り越えたのか?<Number Web> photograph by JIJI PRESS

最終節までもつれ込んだJ1残留争い。前年J1最下位に終わっていた湘南ベルマーレは徳島の敗戦でJ1残留を決めた

「僕は守備が嫌いで、攻撃したいがために守備をしている。攻撃に対するこだわりがあるからこそ守備に対するこだわりも強いんで、だからこそ守備には厳しくなります」

 山口の指導で守備が整備され、失点が減った。

 今シーズンの失点41は、20チーム中9番目に低い。アグレッシブで苛烈な守備が効いている時は、チャンスも作れているし、湘南らしいサッカーを実現できている。だが、引き分けがリーグ最多の16という数字に見られるように、守れるが勝ち切れない試合が多かった。

 前半、いい守備ができている時にチャンスを作るが決められない。そうしているうちに運動量が落ちて、守備の精度が落ち、相手にやられてしまう。あるいは、点が取れないまま試合を流してしまう。最終戦のガンバ戦も前半、再三決定機を掴んだが、決められず、そのまま終わってしまった。

「そういう展開がすごく多くて、勝ち点を積み重ねられなかったのは監督としての僕の責任が大きいなって思います。良い守備だけで、その先(攻撃)が追及できていない。何のための守備なのか、どういうことをしたいから守備をするのか、そこをチーム全体として追及していかないといけない。そうして戦う中で、迷いが生じたり、詰めの甘さが出て失点したりしてしまうことがすごく多いので、そこは自分がもっとはっきりしないといけないという反省があります」

 勝てないが負けない。この勝ち点1の積み重ねが最終的に順位に効いてくることになる。

「できることを自分たちで制限している」

 守備の整備でチームの軸ができたが、それでも残留争いに巻き込まれたのは、フィニッシュの精度、いわゆる得点力(36得点、リーグ15位)不足が大きい。そこは、どのチームの監督も悩む課題だが、山口が重視していたのは、奪ったボールをチームとしてどこに持っていくのかという考えの共有だった。時間帯や相手のプレッシャーを受けるなど状況が異なるが、その中でそれぞれが覚悟を持ってやるように要求した。しかし、最初はうまくいかなかった。それは、選手のメンタルに潜んでいる陰の部分も影響していた。

「うちの選手は、できることを自分たちで制限しているんです。それは心理面が大きく影響していると思います。ミスしたことにすごくナーバスになるんですよ。僕は、ミスした後が大事という話をするんですけど、ミスしたことで次のプレーに影響が出てしまう」

 ミスすることに対しての怖さをなくすためには、個々のメンタルへの取り組みも大事だが、同時にミスを犯さないようなポジション取りやボールの扱いを追求ていくことも重要になる。

 例えば、なぜ、その位置にいることが大事なのかを選手が理解し、納得できれば、そこを離れてミスをした際、「なるほど」と思い、ポジションを考えてプレーするようになる。だが、納得できないままミスすると、「やっぱり違う」と判断され、独自の判断で動き、また同じようなミスを繰り返すことになる。

 山口は、「ミスをするな」とは決して言わなかったが、ミスをしないためのポジショニングなどについて厳しく要求していった。選手も練習から手を抜かず、一生懸命に取り組んできた。川崎戦あたりからその成果が見られ、横浜FC戦でようやく結果に結びついた。

残留争い中に突然だった「オリベイラの急死」

 残留争いが大きく動いたのは、11月20日の仙台戦からだ。

【次ページ】 「今日だけは、選手を許してやってほしい」

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