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1000万DL超『ウマ娘』はサイレンススズカ“悲劇の天皇賞・秋”をどう描いたか? 今だからこそ実現した「夢のような結末」とは 

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屋城敦

屋城敦Atsushi Yashiro

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photograph by©Cygames, Inc.、Keiji Ishikawa

posted2021/10/29 17:03

1000万DL超『ウマ娘』はサイレンススズカ“悲劇の天皇賞・秋”をどう描いたか? 今だからこそ実現した「夢のような結末」とは<Number Web> photograph by ©Cygames, Inc.、Keiji Ishikawa

(左)『ウマ娘』に登場するサイレンススズカ、(右)毎日王冠でのサイレンススズカと武豊

 しかし。と、言うべきではないかもしれないが、結果としてサイレンススズカは無事に帰ってくる。レース後のストーリーで語られたところでは、3コーナーで一瞬脚が動かなくなったが、トレーナーの声が後押しとなって走りきることができたというのだ。また、アニメ版では3コーナーで史実同様に故障を発生するも、周囲の尽力もあって1年もの治療、リハビリを経て復帰を遂げるという展開が描かれる。いずれにせよ、史実とは異なる“if”のストーリー、ハッピーエンドである。

 勝負事に「たら、れば」は禁句だ。多くの人間が、馬が、文字通り命を懸けてきた競馬ではなおさら。だが、あの悲劇から20年以上の時が流れ、皆が純粋にその死を悼むことができるようになった今なら、夢を語っても許されるはず。あくまでネット上の反応を見る限りではあるが、ファンもこの改変を好意的に受け入れているようだ。

「沈黙の日曜日!」悲痛実況がゲームでは“ある言葉”に変化

 それはただ死ななかった、というだけではない。史実をリスペクトしているからこそできる、心憎い演出が盛り込まれているのも大きいのだろう。ゲームをプレイしていると、普段はスキップしがちなレースシーンの中にそれはある。サイレンススズカでシニア級の天皇賞・秋を1着になると、ゴール時に「栄光の日曜日の主役となったのはサイレンススズカ! 第4コーナーの向こう側からみごと盾の栄誉を勝ち取りました!」というこのレースだけの実況が流れる。

 これは当時『スーパー競馬』の中継で塩原恒夫アナウンサーが発した「何ということだ! 4コーナーを迎えることなくレースを終えた武豊!  沈黙の日曜日!」という悲痛な叫びのオマージュ。悲しみが反転し、希望に満ちた言葉となっているのだ。レースをゴール後まで見守り続けたプレイヤーへのご褒美と言っていい。

 『ウマ娘』は他にも、「ライスシャワーが宝塚記念で命を落とさなかったら」、「アグネスタキオンが皐月賞の後も走り続けていたら」、「ナリタブライアンがビワハヤヒデと対決していたら」など、競馬ファンが望んでいたであろうif展開を実装している。ただ名前を借りただけではなく史実へのリスペクトがあるからこそ、それらもファンに受け入れられてきたのだろう。現在のところ、1980~90年代に活躍した馬が中心となっているが、この人気を受けて今後、どの名馬がウマ娘化されるのかにも注目していきたい。私の夢は……。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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