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《甲子園の新トレンド》“独特すぎるフォーム”の「変則左腕」が増えた理由とは…明徳・吉村は「1週間かからず」サイドスローに

posted2021/09/03 17:03

 
《甲子園の新トレンド》“独特すぎるフォーム”の「変則左腕」が増えた理由とは…明徳・吉村は「1週間かからず」サイドスローに<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

明徳義塾の変則左腕・吉村優聖歩のピッチングフォーム

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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Hideki Sugiyama

 夏の甲子園で初めて球数制限が導入された2021年。ピッチャーひとりあたり「1週間500球」を巡る戦略に関心が高まった。

 予選からエースだけが戦い抜いたのは、高川学園と阿南光のみ。準優勝の智弁学園と大阪桐蔭はハイレベルな先発完投型の投手を複数擁し、選手層の厚さが際立った。日大山形と近江はストレートに力があるピッチャーを試合終盤に投入するという、言うなればクローザーのような役割を確立させた。

 時代は間違いなく、プロ野球のように先発ローテーションや分業制へと動いている。だからこそ、チームは個性を出す。今年、そんな思惑がはっきりと伝わったのは、あるタイプのピッチャーが目立ったからだ。

 変則左腕。

 腕の位置、独特の身のこなし。球速や変化球だけに頼らず、あらゆる技を駆使してバッターを幻惑し、打ち取る――。

 そんな技巧派で最もインパクトを与えたのが、明徳義塾の吉村優聖歩だ。

明徳義塾・吉村は「一週間かからず」サイドスローに

 極端に上体を捻り、横から左腕を鋭く繰り出す。もともとオーバースローだった吉村が変則的に投げるようになったのは、今年の春先からだという。監督の馬淵史郎が経緯を説明する。

「どうしても(ボールに力が伝わりづらいなど弊害がある)インステップが直らなかったんです。体が柔らかいですから『それなら、サイドで投げたらどうだ』ってことでね。そうしたら1週間かからずに投げられるようになりまして、練習試合で放らせたら相手が全く打てなかった。これはいけるな、と」

 サイドスローにしてから「腕が振りやすくなった」と、吉村自身も手応えを掴んだ。球速は130キロそこそこながら、ストレートはベース上でひと伸びするほど相手に速さを印象付ける。決め球のスライダーは、同じく変則左腕で現役最多登板を誇る日本ハム・宮西尚生を参考に磨きをかけた。

 その吉村が甲子園でインパクトを残せたのは、「トルネード投法」と呼ばれるフォームだけではない。「ピンチでも緊張しない」という強心臓ぶりも発揮したからである。

 初戦の県岐阜商戦で6回に1点を先取され、なおも無死三塁のピンチから吉村が好リリーフを見せた。4回を投げ2安打、1失点。2回戦のノースアジア大明桜戦でも、1点リードの5回無死一、二塁の窮地で登板し、その後満塁としながらあと1本を許さなかった。試合でも5回を3安打1失点。この2戦で吉村は、その名を全国に轟かせた。

【次ページ】 ドラフト注目の前川も「とても怖いピッチャーでした」

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