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「新宿」でなぜサッカーを? 異例の百年構想クラブ認定、元Jリーガー続々加入も「チームは今、過渡期にあるんです」 

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飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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photograph byCriacao Shinjuku

posted2021/08/26 11:01

「新宿」でなぜサッカーを? 異例の百年構想クラブ認定、元Jリーガー続々加入も「チームは今、過渡期にあるんです」<Number Web> photograph by Criacao Shinjuku

クリアソン新宿の2021キービジュアル。ゴールデン街の協力のもと、ユニフォーム姿で写真におさまった

 キャプテンを務める井筒自身、チームが多様性を尊重するマインドであるがゆえの悩みを抱えていたという。

「例えば学生の選手が練習で暴走したりすると、『何やってんだよ』って言いたくなる。でも、彼は彼なりに考えてやっているから、僕がこうしろ、ああしろって言うのは違うな、って躊躇していた時期があったんです。クラブ自体が多様性を掲げ、認め合うことを哲学としているので、なおさらインクルージョン・マインドが大事なんじゃないかと。でも、スポーツで目標を成し遂げるためには『これをやらなければならない』とか『それは絶対に違う』という基準もある」

 そこで井筒が導き出した答えが、いかにも井筒らしく、ふるっている。

「プロジェクトを推進していくうえで、全員を尊重していたら、チームが前に進めないときもある。個人を尊重しながらまとめていくのが、当たり前ですけど大事だと。それには、愛がないと難しいんじゃないかって」

 またしても冗談か本当か分からないような話を、井筒は真面目な顔で語る。

「誰かが暴走したときに、その考えを尊重する一方で、彼を良くするにはどうしたらいいんだろう、彼と一緒にやるためにはどう伝えたらいいんだろう、と考える。そうしないと言えないし、言う気にもなれない。愛を持つことが大事なんです。だから最近は、結婚関連の本をたくさん読んでいます(笑)」

異例のJリーグ百年構想クラブ認定

 21年2月、井筒と仲間たちに吉報が届いた。

 クリアソン新宿がJリーグ百年構想クラブに認定されたのである。

 Jリーグ百年構想クラブとは、Jリーグへの入会を目指し、Jリーグから承認されたクラブのことだ。

 クラブ経営、地域や行政との関係性、スタジアムの有無など、評価基準は厳しく設けられており、ホームスタジアムを持たないクリアソン新宿が認定されたのは、極めて異例のことだった。

 新宿区との関係性が良いため、スタジアムの問題は将来解決される見込みがあると判断されたからだが、認定の効果について井筒はこう分析する。

「知名度の高い小林祐三が加入し、百年構想クラブにも認定されたことで、Jリーグ周りの方々にクリアソン新宿を知っていただけたのは大きいですね。今、渋谷や鎌倉など地域リーグのクラブが盛り上がっていますけど、ひと足早く認定されたことで、存在感を示せたのも大きいかなと。

 ひとまとめにされるのは悪いことではないんですけど、お笑い第7世代みたいに、個が立ちにくくなってくるじゃないですか。Jリーグを目指すグループではあるんですけど、一方で、クリアソンは新宿という地域で地道に積み上げてきたので、棲み分けをしたいなって僕は思っています」

【次ページ】 サッカー観を変えた「新宿」という物語

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