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【60歳】カール・ルイスが語る“厚底シューズは規制されるべきか” 「公平性に不満を言うなら反論をしたい」 

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涌井健策(Number編集部)

涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui

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posted2021/07/01 11:00

【60歳】カール・ルイスが語る“厚底シューズは規制されるべきか” 「公平性に不満を言うなら反論をしたい」<Number Web> photograph by Getty Images

7月1日に60歳を迎えるカール・ルイス(写真は2019年撮影)

怪我を避けようとする多くの選手が愛用する事実

 選手の安全。それまでの論争から抜け落ちていた視点だった。「厚底シューズは禁止された助力になるのではないか」「シューズのおかげで記録が出ると選手の努力の純粋性が損なわれる」「公平性を保つためにルールを厳格化すべき」。そんな声にかき消され、着用する選手の安全性が担保されているのかはあまり議論されなかった。

 まだ初代の発表から約3年、厚底シューズを履き続けた選手はほぼいないため、長期の着用が怪我や故障にどう影響を与えるかは不明だ。だが繊細な感覚を持ち、怪我を避けようとする多くの選手が愛用する事実こそ、その点での「保証」と言えるだろう。

私は私で当時のテクノロジーの恩恵を受けていた

「私はマラソンを走ったことはないですし、ファンランナーに過ぎません。それでもネクスト%やアルファフライは素晴らしいシューズだと思います。私は軽い靴が好きです。誰もが覚えがあることだと思いますが、子どもの頃、友達とかけっこをする時に靴が重たいからと脱ぎ捨てて走っていたでしょう。軽さと速さは結びつくのです。ナイキは、私の現役時代には存在しない素材を使い、厚底シューズの開発でも『軽さ』を重視しています。だからこそ、履いたときにそんな子ども時代の感覚を思い出させてくれると思います。

 現役時代に現在のスパイクが欲しかったか? いや、そんな事は考えませんね。我々のシューズだって1940年代や'50年代に使われていた革製のスパイクよりは機能がよかった。私は私で当時のテクノロジーの恩恵を受けていたんですから。

 イノベーションは止められるものではありません。私たちが住む世界についてもっと現実的になりませんか? 私は数週間後に南アフリカに行く予定なのですが、フライトは17時間かかります。でも、50年後にはおそらく4時間ほどで到着する飛行機が開発されているでしょう。そして、未来の若者に『17時間飛行機に乗るのはどんな感じですか?』と尋ねられることになると思います。シューズも同じです。

 これがまさに私たちの世界です。前に進むためにバーを押し続け、物事をより良くし続けることで、あなたも『終わった時間』に立っていることに気づくはずです。

 ナイキは選手たちと話をして、開発に時間とお金をかけ、驚くべきシューズを世の中に送りだしました。古い価値観を守ろうとする人たちが不平を言うかもしれませんが、ランナーは『よりよいものを選ぶ』だけなのです。時間は前に進むのです」

カール・ルイス(Carl Lewis)

1961年7月1日、アメリカ生まれ。1983年から1996年にかけて100m、200m、走幅跳、4×100mリレーで、9個の五輪金メダルと8個の世界陸上での金メダルを獲得した。走幅跳では五輪4連覇を達成し、'91年東京世界陸上100mは当時の世界記録9秒86で優勝。'97年に現役引退。

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