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【東京五輪】なぜ運営側は世間とズレてしまうのか? 五輪銀メダリスト・山本博も“苦言”「無観客の判断が遅いよね」 

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小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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photograph byHideki Sugiyama

posted2021/04/20 17:01

【東京五輪】なぜ運営側は世間とズレてしまうのか? 五輪銀メダリスト・山本博も“苦言”「無観客の判断が遅いよね」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

1962年生まれの山本博。5度五輪に出場。84年ロスで銅メダル、04年アテネで銀メダル。日体大教授

「体育教師をずっとやってきて、僕自身も考え方が変わったんです。『今から体育の授業だー』って、喜んで教室から出てくる生徒ばかりじゃない。むしろ体育の嫌いなコもいて、中には保健室に閉じこもっちゃうコだっている。だから不得意なことはムリしてすることはないし、だけど健康のために体を動かす習慣は身につけた方が良いよという指導をしてきました。おそらく今の五輪も同じで、自国開催だからって喜んでいる人ばかりではない。もっと福祉にお金を回して欲しいと思う人もいるだろうし、そういう人の心情を理解するべきじゃないかな。自分とは異なる意見を持つ人たちにとっても何かプラスになることはないか。大会を運営する立場の人はまずそこを考えてほしい。あの五輪があったからこそスポーツに関心が持てて、体を動かす習慣が身についたんだよねって。そう話す人が増えてくれたら五輪を開催した意義があったと、僕の中では思えるんだけど……」

「聖火リレーはもっと簡素化すべき」

 だが現実はそううまくは運んでいないように思える。政治家の発言がむしろ足を引っ張り、聖火ランナーやボランティアの離脱も相次ぐ。そんな現状をどう考えているのだろう。

「聖火リレーはもっと簡素化するべきですよ。このコロナ禍で亡くなった方もいるわけで、遺族の方がそれを見てどんな気持ちになるかを考えてみてほしい。世界ではまだロックダウンをしている都市もあるくらいだから、日本だけが聖火で盛り上がって、それが世界の人たちから滑稽に思われなければ良いと思います」

 一方で、オリンピックの開催の是非についてはこう意見を述べる。

「イベントもできる限り自粛してほしいというのが僕の考えなんだけど、それは競技だけは何としてもやってほしいという思いがあるから。アスリートの多くはこの4年に1度の五輪のために人生を賭けてきているわけ。もしその舞台が失われてしまったら、その人の競技人生が終わっちゃうことだって考えられる。アーチェリーでいえば五輪がすべてですよ。たとえ世界選手権でメダルを獲っても新聞に写真すら載らない。でも五輪は違う。あのメダルを手にしたときの感動は今でも忘れられないし、すべての選手の熱い思いが燃えたぎっているからこそ、そこで勝つことは特別なんです。どうか選手の権利だけは奪わないでほしいと、切に願いますね」

なぜ運営側と世間でギャップが生まれるのか?

 コロナ以前と以降で、世界は大きく変わってしまった。人と触れあう機会が極端に減り、日常の何気ない会話でさえもままならない。当然、オリンピックのあり方だって、当初の予定とは大きく変容せざるを得ないだろう。

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