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ビエルサの愛弟子が語るオシムとの違い 「人もボールも動く」サッカーは同じでも指導法が“真逆”なワケ 

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赤石晋一郎

赤石晋一郎Shinichiro Akaishi

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photograph byGetty Images(L),BUNGEISHUNJU(R)

posted2021/04/18 06:00

ビエルサの愛弟子が語るオシムとの違い 「人もボールも動く」サッカーは同じでも指導法が“真逆”なワケ<Number Web> photograph by Getty Images(L),BUNGEISHUNJU(R)

共通点も多々あるビエルサ(左)とオシム

 辰己が指摘するようにビエルサのサッカーもまた、「走るサッカー」が戦術の柱となっている。

 例えばリーズのOMF(オフェンシブ・ミッドフィルダー)の起用法にもその思想が見て取れる。現在、リーズのOMFのレギュラーは22歳(1999年生まれ)のタイラー・ロバーツが務めているのだ。選手の格やテクニックの面から言えば、2019-2020シーズンで1部昇格に貢献したパブロ・エルナンデス(36歳・1985年生まれ)の方が上である。しかし今シーズンはエルナンデスを差し置いてロバーツが重用されている。ロバーツのプレイは、守備時には激しくプレスを遂行し、攻撃時は左右にダイナミックに走りボールを引き出す動きを繰り返す。ベテランのエルナンデスにはそこまでの運動量は期待できない。ロバーツの起用理由には「若くて走れる」というポイントがあると見られている。

若手選手を好むという傾向がある

 荒川が語る。

「マルセロのサッカーは長い距離を走ることを重要視します。その意味でも若手選手を好むという傾向があります。長い距離を走ることの意味は相手のマーキングを混乱に陥れることや、ラインを下げさせたり、スペースを作ることが出来るという利点があります。そしてダイナミックに走るプレイをすることで多くの人数をゴール前にかけることが出来る。攻撃的なサッカーを展開するうえで、走るという要素は欠かせないものなのです」

 オシム時代に日本サッカーに導入されたのが「ポリバレント」という概念だ。多価を意味するポリバレントは、サッカーにおいては「複数のポジションをこなすことのできる選手」という意味で使用される。

「それまでの日本サッカーでは『ユーテリティプレイヤー』という言葉がありましたが、ポリバレントとは厳密に言うと意味が違います。ユーテリティプレイヤーとは、“使い勝手がいい選手”として語られることが多く、前の試合ではDFだった選手が次の試合ではMFにケガ人が出たのでMFで出場する、というように試合ごとに違うポジションで起用される選手を指して使用されます。

 一方でポリバレントは試合中にポジションを変え、そしてその都度ポジションに応じたプレイが出来る選手のことを指します。マルセロもポリバレンテ(ポリバレントのスペイン語表現)という言葉をよく使います。彼自身も複数のポジションをこなすこと出来る選手が好きで、重用する傾向があります。ポジションがSBであって試合の流れでCBとしてプレイすることもあれば、MFやWGとしてプレイすることもある。マルセロは『試合展開の中で自然と3つのポジションでプレイします』とよく語り、複数のポジションをこなせるよう選手に要求します」(荒川)

ビエルサとオシムの指導法は真逆

 共に「人もボールも動く」サッカーを志しているビエルサとオシムだが、その指導法は真逆だ。オシムの練習は基本的にはボールを使い対人プレイを取り入れた「実戦形式」である。ビブスの種類によって選手はプレイルールが定められ、それに沿ってプレイする。辰己によれば「ジェフ時代の練習は毎日違うメニューが用意されていました。オシムさんに『いったい何通りの練習方法があるのか?』と聞いたところ、『数えたことはないし、数える必要はあるのか?』と言われました。どの試合においても全く同じシーンというものはないのだから、選手には場面ごとに最適なプレイを選択できるための『考える力』を養わせる練習が多かった」と振り返る。

【次ページ】 ビエルサは“意識づけ”を選手に指導する

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