川内　そうですね。自己ベスト更新のうれしさ、楽しさを思い出しましたし、まだまだいけると思っています。厚底は『薄底を履いた時マイナス2分くらい』の力があるのかなと感じていますので、今までの自己ベストが2時間8分14秒だった私が仮に2分速くなれば、2時間6分14秒まではいけます。薄底の時は2時間7、8分を目指していましたが、今は2時間5、6分を目指す気持ちで練習していいんじゃないかと思っています。

高橋　これまで薄底だったと思うけど、そのこだわりってどうやって捨てられたの？

川内　周りのランナーが厚底を履いている中で、私も履かないと厳しいなと感じていたのが大きいですね。タイムを出さない限り世界ランキングも上がっていかないですし、挑戦する機会や招待される機会も失ってしまいます。記録を残していかないと厳しいという思いがありました。

高橋　厚底の流れに乗って開かれた世界があって、川内君もそこに合わせていかないといけなかったんだ。

現役時代の高橋尚子。08年10月に引退を表明　©BUNGEISHUNJU

恩師の小出義雄監督と　©BUNGEISHUNJU

厚底の弱点は上り？

川内　ペースメーカーがついて直線が長いコースでは、今回のびわ湖のような好記録につながると思います。びわ湖の『サブ10』が42人というのは、これまでなら信じられない人数ですよ！　ただ、カーブが多くてアップダウンがあるコースだとどうなるか。厚底だと足は回転させるだけというか、蹴るというよりは跳ねるイメージを持っています。そういう走りに合わないような大会だと、従来くらいの記録しか出ないのかなという印象ですね。

高橋　私も実際に走ってみて感じました。厚底は上りに少し弱いのかなって。下りはペースに乗れるけど、上りになると跳ねてしまって推進力が少し落ちる気がする。平坦でリズムをつかむ分には、ものすごく機能がいいよね。コースによって、厚底がフィットする、しないというのは確かにありそうだなあ。

川内　フラットなコース、例えばドバイとかだと、すごくいい記録が出るだろうなと容易に想像ができました。これまでも自己ベストのタイムが当てにならない、参考にならない選手はいましたが、今後はますますそういう選手が増えていくかもしれません。

高橋　厚底を履いてリズムに乗ってしまったら、誰が化けるか分からないってことだよね。川内君はびわ湖が厚底で初めてのフルマラソン。ここから化ける可能性も、まだまだあるよね。

川内　周りが2年くらい履いている中で、私は厚底歴がまだ2、3カ月ですからね。年齢的にはベテランですが、厚底歴では間違いなくルーキーです。一時は遠くに離れてしまったライバルたちの背中も、また近づいてきましたよ！

高橋　タイムを目指すことに喜びを感じるのは、トップランナーだけじゃないからね。自己ベストを更新していくのは、一般のランナーにとってもすごくうれしいこと。川内君は、びわ湖で新たな可能性を見せてくれたと思う。自分も厚底を履いてみようかなとか、厚底で今までと違う世界が見えるかもしれないとか、川内君に影響される人がたくさん出てくるよ。私もそのうちの1人なんだけどね！