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巨人・桑田真澄コーチ「9回完投135球」論の本質 “昔の俺たちは凄かった”的OBと似て非なるワケ 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2021/02/14 11:00

巨人・桑田真澄コーチ「9回完投135球」論の本質 “昔の俺たちは凄かった”的OBと似て非なるワケ<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2013年、東大野球部を指導したころの桑田真澄コーチ。「9回135球」論には深い思考がありそうだ

 2014年夏には当時レンジャーズのダルビッシュ有が「(MLB)の中4日は絶対に短い。球数はほとんど関係ないです。120~140球を投げても中6日あればじん帯の炎症も全部クリーンにとれる」と言い、中6日での登板ならば100球を大きく超えて投げても大丈夫だと訴えた。

MLB的な考えだと「135球」はあり得ないとなるが

 しかし一方で、MLBには「PAP(Pitcher Abuse Point)」という指標もある。これは先発投手の酷使度を示す指標で「(投球数-100)の3乗」という数式で導き出される。PAPの合計がシーズンで10万を超すと肩肘を壊す危険が高まり、20万をオーバーするといつ壊れてもおかしくないという。

 MLBでは、PAPが厳格に守られている。2019年のバウアーにしたところでPAPは92,653、黄信号である10万の手前で止まっている。球数は最高で127球、120球以上投げたのは34試合中5試合だ。しかし同じ年の千賀滉大は38万5727、PAP的には赤信号の20万を大きく超えている。投球数は143球を最高に、120球以上が26試合中14試合だった。

 MLBの考え方にのっとれば「135球」はあり得ないということになる。実は筆者もこの意見に基本的に賛同している。143試合制で25試合に登板し、135球ずつ投げればPAPは107万にもなる。

 しかしながらPAPは「投球数」とともに重要な「登板間隔」の問題が考慮されていない。100球という制限も「腰だめの数字」であり、科学的な根拠に乏しい。

 ダルビッシュが「中6日あれば120球、140球でも大丈夫」と言ったのも登板間隔の差を考慮してのことだ。桑田氏の「9回完投135球」にも検討する余地はあるといえるだろう。

ベテランOB解説者の歓迎の声には違和感

 桑田氏のこの考えに対して、ベテランOBの解説者から歓迎する声が聞こえてきている。

「俺たちの時代は先発投手は完投するのが当たり前だった。球数なんか気にせずに投げまくったものだ。しっかり走りこめば何球投げてもくたばったりはしない。桑田もようやくそのことに気が付いたか」

 きっと、このような思いがあるのだろう。だが、ベテランたちのこうした考えと桑田氏の「9回完投135球」は、似て非なるものだと思う。

【次ページ】 桑田コーチは実技、実績、研究でも一流だ

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