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“観客数396人”は「仕方ない」のか… 棚橋弘至がどうしても鷹木信悟に勝たなければいけなかったワケ 

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原壮史

原壮史Masashi Hara

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photograph byMasashi Hara

posted2021/02/03 17:02

“観客数396人”は「仕方ない」のか… 棚橋弘至がどうしても鷹木信悟に勝たなければいけなかったワケ<Number Web> photograph by Masashi Hara

1月30日の鷹木信悟戦に勝利した棚橋弘至。“流行っている感”を失いつつあるプロレスに危機感を抱いている

「仕方ない」に強い危機感を持っていた棚橋

 棚橋は、1.18よりも前から危機感を持っていた。

 ブシロード体制になって以降、“流行っている感”によってブームを再燃させ、人気を高めてきた。現地にいなくてもファンが減ったわけではないが、静かで空席のある会場はまさに“流行っている感”の逆だ。仕方のないことではあるが、流行っていない感が出ると控え目になってしまったファンの気持ちをプロレスから離れる方向に加速させかねない。

 今年の1.4の試合後、棚橋は「残りのキャリアを全部使ってでも、もう一回プロレスを盛り上げる」「絶対にもう一回面白くするから」と語った。

 かつてのいわゆる冬の時代について、棚橋はその原因を「たぶん、みんな言い訳を探していたんですね」(※東洋経済オンライン、2014年11月14日)と語っている。

 仕方のないこと、とみんなが受け入れていくこの状況がとても危ないことを、棚橋は痛いほど知っていた。

NEVERを「下に見てますよ」発言の理由

 だから、棚橋はNEVERのベルトに照準を合わせた。NEVERについて棚橋は「目的ではなく手段」と言い切るだけでなく「(下に)見てますよ」とも言い、波風を立ててみせた。言葉通りに、IWGPヘビー級のタイトルを狙うための手段という意味もあるが、NEVERのベルトを巡るこの戦いそのものをプロレス界をもう一度盛り上げるきっかけにしようとしていた。

 手遅れになってしまう前にファンを惹きつけて、控え目になっている気持ちを再び熱くさせる。これは冬の時代を乗り越えてきた棚橋にしかできないことであり、IWGPのベルトを巻いたことがある立場でしかできないことでもあった。

 そしてそれは棚橋の狙い通りになった。広島で行われるIWGPヘビー級・IWGPインターコンチネンタルのダブル選手権よりも、ファンはNEVERを巡る争いに注目した。連日発せられる両者のコメントは賛否両論を巻き起こし、巻き込まれた各自が自分のプロレス熱を再確認することになった。それは勝敗が全く読めない試合そのものへの高い期待に繋がる。

 かくして1.30愛知県体育館、駆けつけた2156人のテンションは高かった。普段は見せない棚橋のヘッドバットやラリアットに驚き、ドラゴンスープレックスホールドでは3回目の手拍子が思い切り会場に響き、その直後には激しい足踏みもあった。間違えて3回手を叩いてしまうことは恥ずかしい失敗ではなく、更なる盛り上がりに繋がっていた。前哨戦から引き摺りこまれたファンは完全に目の前の試合に没入していた。

 棚橋は声が出せなくても以前のように会場全体で熱狂できることをNEVERの戦いで証明し、最後は「新日本プロレスを盛り上げてきた記憶そのもの」のハイフライフローで決着となった。

【次ページ】 棚橋が自分にしかできないことをしてくれる

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