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作者の名は「藤井聡太」でSNSざわつく…藤井二冠と斎藤慎太郎八段「年1度の詰将棋」がつないだ美しき関係 

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諏訪景子

諏訪景子Keiko Suwa

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posted2021/01/16 17:03

作者の名は「藤井聡太」でSNSざわつく…藤井二冠と斎藤慎太郎八段「年1度の詰将棋」がつないだ美しき関係<Number Web> photograph by KYODO

2018年の詰将棋解答選手権で問題を解く藤井聡太六段(当時)

 この年は第2ラウンド最終問題の正解者ゼロという大混戦を、初出場の若島正さん(京都大学名誉教授)が制した。若島さんも東京会場で、第1ラウンドを20分で解いている。若島さんは解答選手権の創設者で、2004年の第1回から第10回まで実行委員長を務めていた。61歳での優勝は最年長記録。これを藤井二冠や斎藤八段が破るときは来るだろうか。

 翌年から始まった藤井二冠の5連覇の間、斎藤八段は公務と重なっての欠場や、10位前後の不本意な成績に終わったことを気にかけていた。2019年は2位。「目を覆うような成績だったので、私のほうががんばらないといけないと思っていました」とほっとしていた。

「将棋の棋士は、勝負師と研究者と芸術家の顔がある」

 ところで本稿では詰将棋解答選手権のことを「解答選手権」と略している。一般的には「詰将棋選手権」と略されるが、詰将棋を「創作する人」は「解答選手権」と呼ぶことが多い。自作の詰将棋を公に発表したり、専門誌に投稿したりする「詰将棋を創作する人」のことは「詰将棋作家」と呼ぶ。藤井二冠も斎藤八段も、詰将棋作家だ。ふたりがそろうと、自然と最近発表された詰将棋の話題が弾む。特に斎藤八段は江戸時代から昭和、平成にかけての名作への造詣が深く、将棋教室で斎藤八段を講師に招いた「詰将棋作品の美しさと魅力について」という講座が開講されたほどだ。

 棋士は棋力を考慮すると、日頃解く詰将棋の難易度を上げる必要がある。解いているうちに「自分も作ってみよう」と思う棋士が、詰将棋作家としても大成した。引退した内藤國雄九段、十七世名人の資格を持つ谷川浩司九段が代表的で、ほかに『詰将棋ハンドブックシリーズ』の著者・浦野真彦八段、解答選手権優勝経験がある北浜健介八段や船江恒平六段など。及川拓馬六段と上田初美女流四段は夫婦ともに詰将棋を創作している。

 彼らは「魅せる終盤」を指す。谷川九段は「将棋の棋士は、勝負師と研究者と芸術家の顔がある」と語ったが、詰将棋作家兼棋士は芸術家の側面が色濃い。十数手前の何気ない一手が、最後の詰みに必要不可欠になる。対局中の違和感が1手で氷解する。ただ駒が動くだけの盤上がきらびやかになる。芸術家の駒は舞う。藤井二冠が指した数々の妙手の華やかさは、詰将棋に通じるものがある。

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