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「普段の研究は息苦しい。でも対局の現場では…」渡辺明名人が脳研究者に明かしたAIとの距離感とは 

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雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph byKei Taniguchi

posted2021/01/13 18:00

「普段の研究は息苦しい。でも対局の現場では…」渡辺明名人が脳研究者に明かしたAIとの距離感とは<Number Web> photograph by Kei Taniguchi

Number将棋特集第2弾で対談を行った池谷裕二東大教授と渡辺明名人

池谷 しばらくすると、また少し時代は変わってくると思います。学習理論で同じような話があるのです。遺伝子による頭の良さは個人差があります。つまり、良い遺伝子を持っている人が有利だと。でも、優れた脳を発達させた人は少し話が違います。なぜなら脳は学習によって性能が向上するからです。いや、本当を言えば、そのために脳があるんです。遺伝子で決まっているデフォルトから自由になるために。

 つまり、学習や教育による「伸びしろ」によって、生まれついてのちょっとした差異は十分に無効化される。だから世の中は面白いんですよね。ただ、時代が進んで、効果的な学習や教育方法ががっちりと確立されて、脳の学習能力が「これ以上は学習できません」と飽和するくらい、脳が成長できるようになったら、また振り出しに戻るのです。今度はまた個人の元々の能力差、つまり地頭の良さが効いてくるんです。

 生まれてから「よーいドン」で学習を初めて、いかに素早く脳を飽和させるだけの成長競走だったら、スタート地点ですでに高い位置にいる人がゴールに近くて単純に有利ですからね。

渡辺 最初は頭のいい人が強い。その後はいい教育を受けた人が強い。さらにそれが行き着くと、また地頭のいい人が強くなると。

池谷 将棋は今2つ目の「学習」の段階にあるんでしょう。だから、まだまだ将棋は面白い。これはしばらく続くのではないでしょうか。

※記事に事実と異なる箇所があったため、文章を一部削除いたしました (2021年1月15日)

Number最新号には渡辺明名人と池谷裕二教授による対談本編「脳とAI、昼寝とラムネ」が掲載されています。ぜひご覧ください。

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