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福島県“最強”の聖光学院で「野手歴代1、2を争う逸材」 それでも監督の本音は「高卒プロは早すぎる」 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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posted2021/01/12 17:00

福島県“最強”の聖光学院で「野手歴代1、2を争う逸材」 それでも監督の本音は「高卒プロは早すぎる」<Number Web> photograph by Genki Taguchi

聖光学院で1年生の秋からレギュラーに君臨する坂本寅泰

 重ねるように問う斎藤に、「坂本君本人は、その意志が強いようです」と伝えると、低い唸り声を漏らしながら口ごもる。

「まあ、行くには行けるのかもしれないけど」

 そう言葉を発し、監督の目線で冷静に説く。

「うちはプロの一線でバンバン活躍できるような選手を送り出した実績がないかんね。いくら福島あたりで評価が高くたって、一歩外に出たらいい選手はいっぱいいるわけだから。大阪桐蔭や日大三高でクリーンアップを打てるか? と言ったら、まだそのレベルじゃない。高校生は純粋だから『どうしてもプロに行きたい』ってなるんだろうけど、『井の中の蛙的な意識で突っ走るのは危険だ』ってことは本人に伝えてっから。今のままなら、坂本の高卒プロは時期尚早かな」

 聖光学院出身でプロとなったのは7人。そのなかで、投手なら10勝や規定投球回、打者なら打率3割や2桁本塁打、規定打席など明確な実績を残した選手はひとりもいない。大学や社会人、独立リーグ経由でプロ入りしたケースもあるため一概に論評できないが、そういった現実もまた、斎藤の判断をシビアにさせている。

「もっと熱い男になんねぇと」

 ただし、坂本に対して淡々と語るなかにも、望みを抱かせるフレーズもあった。

「今のままなら」

 心を鍛え、克己し、仲間とぶつかり合いながらもチームの和を育む。野球の技術の高さだけではメンバーには入れない。その理念が首尾一貫しているのが聖光学院であり、だからこそ夏は2019年まで福島県大会で13連覇、勝っても甲子園がなかった昨年も東北の頂点まで上り詰めることができた。

 斎藤は坂本の能力を認めている。それでもまだ、自信を持ってプロへ送り出せずにいるのは、打者としてでなく人間としての「中身」に物足りなさを感じているからではないか?

 んだね。監督が頷く。

「坂本っていうのは素直だし、人間的に悪い要素は一切ない。ただ、ガツガツ、ギラギラみてぇな、内側から沸き立つような自己表現がないに等しいんだよ。だから、俺もまだ、坂本に対して熱く、アグレッシブにいけねぇ部分があんだ。あいつが本気で高校からプロに行きたいんだったら、もっと熱い男になんねぇと。それが出てこねぇってことは、もしかしたらまだ、自分のためだけに野球をやってんのかもしれないね」

 坂本自身、聖光学院の熱さに惚れて、地元のいわき市から約120キロも離れた伊達市まで、その覚悟を形にしにきたはずだった。

 坂本はこう言っている。

【次ページ】 「もっとこの子らと野球をしたかった」

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