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ドラフトウラ話「なぜ西武は外れ1位で投手を獲らなかった?」右の大砲・渡部健人を急浮上させた“ある動画” 

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安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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posted2020/11/10 17:04

ドラフトウラ話「なぜ西武は外れ1位で投手を獲らなかった?」右の大砲・渡部健人を急浮上させた“ある動画”<Number Web>

西武から繰り上げ1位で指名を受けた桐蔭横浜大の渡部健人(176cm、112kg)

「ここ(横浜スタジアム)のバックスクリーンにも持っていったし、右中間のいちばん深いところで、あとちょっと……って打球もあった。相模原球場で1試合2弾の時は、やっぱりバックスクリーンと、2本目は左中間の芝生席の最上段でしたから」

 両翼95m、中堅120m……相模原球場は右中間、左中間のふくらみも深い。

「それだけのすごいホームラン、ガンガン打ってるのに、コロナのせいなのか、スカウトの人があんまり見に来てないんですよ。それで、『お前もついてないなぁ……』なんて、健人と話したりしてたんですよ」

「もし近大の佐藤輝明と渡部が両方獲れたら……」

 そんなある日、マネージャーさんが何やらパソコンで、映像の編集をしているのが齋藤監督の目にとまった。

「何してんだ?って訊いたら、『熱心に見に来てくれる○×スカウトに、健人のホームラン8本の映像を送ってあげようと思って』なんて言うじゃないですか。これだ!って思いましたね」

 たいていのチームは、リーグ戦の実戦の様子を、ネット裏からビデオ撮影している。

 それなら、特定の誰かさんだけじゃなくて、調査書持ってきてくれた10球団全部に送って、「渡部健人のすべて」をアピールしようじゃないか!―― 齋藤監督の指令が下って、その反応がものすごかったという。

「映像を見てくれた監督さんが、『もし近大の佐藤(輝明・内野手・阪神1位)と渡部が両方獲れて、近い将来クリーンアップを組むことを想像しただけでワクワクして眠れない!』って言ってくれたり……こっちがビックリするほど、反響があったんですよ」

「ドラフトも変わったなぁ」

 ドラフトも変わったなぁ……と思った。

 いや、これが「コロナ禍のドラフト」なのかもしれない。見てもらえる機会が少ないのならば、見せる工夫をすればよい。今は、その「手段」には事欠かない時代だ。

 もしかしたら、これは「未来のドラフト」のあり方の“端緒”になる出来事のようにも思える。

 わざわざ出掛けて行って、みんなで集まらなくても、居ながらにして「会議」でも「飲み会」でも出来てしまう時代だ。プロ側に球場に出掛けて行きにくい事情があれば、それを補う形で、選手側が「プロモーションビデオ」を制作して、その“不便”を補う。

 それもまた、大いに「あり」ではないか。

 みんなが結構驚いたという桐蔭横浜大・渡部健人内野手の西武1位指名。その影には、桐蔭横浜大野球部を挙げた「組織力」と、新鮮な発想に根差した「工夫」があったのだ。

 ひょうたんから駒……なのかもしれないが、コロナ禍の中で、「ドラフト」もまた新しい時代に入ったのかもしれない。

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