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18歳で“プロ契約より銀行員”を選んだバイエルン監督・フリックは、どうやってチームを再建したのか? 

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ティエリー・マルシャン&アレクシス・メヌーゲ

ティエリー・マルシャン&アレクシス・メヌーゲThierry Marchand et Alexis Menuge

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photograph bySébastien Boué/L’Équipe

posted2020/11/15 17:01

18歳で“プロ契約より銀行員”を選んだバイエルン監督・フリックは、どうやってチームを再建したのか?<Number Web> photograph by Sébastien Boué/L’Équipe

CL決勝のPSG戦、コマンがキミッヒのクロスに頭で合わせてゴールをあげた。これが決勝点となった

 フリックが指揮を執り始めた19年11月3日以降、バイエルンは公式戦36試合を戦い33勝(1分2敗)をあげた。本来なら《チームの移行期》となるはずだったシーズンで、この結果は驚異的である。だが、フリックの場合、統計的な数字もさることながら、チームを完全に変貌させたことに大きな意義がある。

 長きにわたりクラブを支えたリベリーとロッベンがチームを去った昨年夏、バイエルンは大きな変革期を迎えていた。ゼップ・マイヤーとウリ・ヘーネス、ゲルト・ミュラーが同時にチームを離れた1979年以来の大々的な変化である。だが79年に3人の離脱が象徴的にもスポーツ面でもダメージにはならなかったのは、カールハインツ・ルンメニゲとクラウス・アウゲンターラー、そして1974年以来のクラブ復帰となったパウル・ブライトナーによりチームは戦闘力を維持し続け、リーグ優勝とUEFAカップベスト4進出を果たしたからである。監督のパル・ツェルナイも前季からの留任だった。

 他方で昨季の変革は、たとえリスボンでのCL決勝ラウンドに、2013年のボルシア・ドルトムントとのCL決勝を戦ったメンバーが5人(ノイアーとボアテンク、アラバ、トーマス・ミュラー、ハビ・マルティネス)残っていたにせよ、単なる移行ではなくニコ・コバチに課せられた構造的な大改革であった。

ラームからキミッヒ……入れ替わっていく選手たち

 チームの再興は、2015年にバスティアン・シュバインシュタイガーが、2017年にはフィリップ・ラームが去ったあたりから徐々にはじまった。それは世代交代を伴うもので、クラブはベンジャマン・パバール(24歳)やリュカ・エルナンデス(24歳)、キングスリー・コマン(24歳)、セルジュ・ニャブリ(25歳)、レオン・ゴレツカ(25歳)らの若手を次々と獲得、さらにはアルフォンソ・デイビスやジョシュア・ザークツィーといったティーンエイジャーにも手を伸ばしたのだった。

 トップに留まりながら、いかにスムーズに移行を成し遂げるか。それも無駄な出費を費やすことなしに。ウリ・ヘーネスとカールハインツ・ルンメニゲ両首脳の関心はそこにあった。そうであるから2015年にペップ・グアルディオラがケビン・デブライネの獲得を切望した際も、《ベンチに座り続けることになるかも知れない》選手に5000万ユーロも支払えないと拒絶したのだった。

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