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日本のスクラムの強さとは一体なにか? 堀江翔太、稲垣啓太らを突き動かした「慎さん」の情熱と探究心 

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倉世古洋平(スポーツニッポン新聞社)

倉世古洋平(スポーツニッポン新聞社)Yohei Kuraseko

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posted2020/11/02 11:01

日本のスクラムの強さとは一体なにか? 堀江翔太、稲垣啓太らを突き動かした「慎さん」の情熱と探究心<Number Web> photograph by AFLO

長らく日本の弱点と言われてきたスクラム。長谷川慎コーチはフランスやヤマハで培った技術を日本代表へ還元した

“完成”したのはW杯開幕1カ月前

「総体重が300kg違えば別ですけど体重は問題じゃない。僕らは8人の力を絶対に漏らさないスクラムを組みたい。それが日本のスクラムだと選手にも言っている」

 世界の列強に真っ向勝負を挑めるスクラムが完成したのは8月、北海道・網走合宿だった。合宿後、スクラムコーチの長谷川慎の力強い言葉が耳に残っている。

 W杯前最後の強化合宿初日の同月19日。スクラムの呼吸が合わずにミスが目立ち、ジェイミー・ジョセフHCの怒声が飛んだ。何か新しいことを試しているのが伝わった。

 理論家の稲垣のもとには報道陣が多く集まる。理路整然と取り組みを説明した。

「海外の高いスクラムに対して日本の低いスクラムは有効だが、崩れた時にレフェリーに悪い印象を与える。崩させないことにフォーカスをしている。落とさせないという点ではいい取り組みができた」

「低すぎる」から「低い」に

 手応えを口にした22日はヤマハ発動機が練習相手を務めた。「トップリーグ最強」とも言われるスクラムを持つチームと組む際のテーマの1つが、「低すぎる」から「低い」スクラムにすることだった。

 7、8月のパシフィック・ネーションズカップの3試合、スクラムでたびたび反則を取られていた。決して力負けしたわけではないのに笛を吹かれる。先に地面に落ちる分、上から押しつぶされたと判断されることが原因だと長谷川は見ていた。

 武器だった低さへのこだわりを、幾分か和らげようとした。上方修正分を体に染みこませるために、相撲のぶつかり稽古のように相手だけがコロコロ替わって延々と組み続けた。胸を貸したヤマハの元代表ロック、大戸裕矢はこう語った。

「僕らがヒットしても崩れない。まとまりを感じた。」

 フッカー坂手淳史の述懐が、技術を突き詰めた先、さらに高みにたどり着くために必要な要素を言い表していた。

「覚悟という言葉が途中から出たんです。覚悟を持って1本1本組むことで、1つのスクラムでも変わってくるんです」

 ヤマハは招待ではなく自費で静岡から北海道まで来て、2日続けて1時間強のぶっ通し稽古に付き合ってくれた。強いスクラムは、強い相手がいて初めて生まれる。遠路かけつけてくれた「男気」には「覚悟」でぶつかるのが自然な流れだった。

【次ページ】 「原点を思い出させてくれた」

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