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池江璃花子に奇跡を見た。アスリートの本能とパリへのワンストローク。

posted2020/09/06 20:00

 
池江璃花子に奇跡を見た。アスリートの本能とパリへのワンストローク。<Number Web> photograph by 東京都水泳協会/ベースボール・マガジン社

復帰レースとなった東京都特別水泳大会、スタート時の池江。肩から上腕にかけてのラインに筋肉が戻っているのがはっきりとわかる。

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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東京都水泳協会/ベースボール・マガジン社

 白血病のため1年7カ月の間、実戦から離れていた池江璃花子(ルネサンス)が、8月29日、東京辰巳国際水泳場で行われた東京都特別水泳大会の女子50メートル自由形に出場し、昨年1月13日の三菱養和スプリント以来594日ぶりにレース復帰を果たした。

 萩野公介や大橋悠依ら多くのトップスイマーが集った大会。自身が持つ日本記録の24秒21と約2秒違いの26秒32のタイムで泳ぎ、5位になった池江は、感無量の面持ちでこう言った。

「ここまで戻ってきたぞということをやっとみんなに見せることができました。ここから第2の水泳人生が始まると思っています」

 池江自身が「タイムや順位ではなく、ここで泳いでいるということに自分自身、感動した」と強調するように、今の時点でフォーカスすべきことは成績の部分ではない。ただ、彼女の泳ぎをシンプルに見つめれば見つめるほど、周囲も興奮を抑えるのに必死にならざるを得ない。

泳ぎを見て「さすがだな」と。

 まずはタイムだ。今年6月から池江を指導をしている西崎勇コーチによれば、試合の3日前に2人で話し合った第1目標は、「日本学生選手権(インカレ)参加標準記録の26秒86を切ること」。そして陰の目標として「26秒5が出たら二重丸をつけていいよね」ということだった。ところが終わってみればシークレットのターゲットをも上回る26秒32。二重丸どころか花丸の結果だった。

 泳ぎの質が変わっていないことも西崎コーチを驚かせた。元々、大きな泳ぎを持ち味としていた池江だが、1年7カ月ぶりのレースでもワンストロークの長さは健在だった。さらには水面で高いポジションをキープする能力にも変化はなかったという。

 西崎コーチは「今日の泳ぎを見ていても、さすがだなと思うところがありました。最初の10メートルで分かりました」と言いながら、「今までを振り返ってみても、池江選手は良い意味で皆さまの期待を超えてくる存在。一緒に練習を始めてからの戻り方(復活ぶり)は、私がイメージしていたのと比べて全体的に一歩二歩早いという感触はあります」と続けた。

【次ページ】 体調を第一に、一つずつ前へ。

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