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聖光学院が見せた真の高校野球。
幻の14連覇と新たな歴史の始まり。 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byGenki Taguchi

posted2020/08/20 08:00

聖光学院が見せた真の高校野球。幻の14連覇と新たな歴史の始まり。<Number Web> photograph by Genki Taguchi

福島県の高校野球独自大会を制した聖光学院と監督の斎藤智也(中央下)。

「負けないな」と感じられた。

 斎藤は、選手たちの渇望を求めていた。

 監督が不満を抱くのは、決して選手たちが表に出さなかった本音が、試合で出てしまっていたからだった。

「勝ったところで、甲子園はない……」という、偽らざる失望である。

 しかし、その負の感情は、指導者とのミーティングや試合を重ねるごとに払拭されていったのも事実である。

 チームを客観的に見てきた主将の内山にとって、過信からではなく、心の底から「負けないな」と感じられたのが、準々決勝の磐城戦に勝利してからだという。

「監督さんや部長さんからは、ミーティングを通じてたくさんの言葉をいただいたんですけど、磐城の試合が終わってから『甲子園がなくても勝つぞ』って自然と思えました」

 その心理へと導いた、指導者たちの数々の言葉。なかでも印象深かったのが、斎藤から選手たちへの、この問いかけである。

「将来、お前たちが親の立場になって、子供に『お父さんは優勝しても甲子園に行けなかったけど、聖光学院の遺伝子を受け継いで戦い抜いたから、まったく後悔はないよ』って言えたら、どれだけかっこいいだろうな」

 時間はかかったのかもしれない。それでも聖光学院の選手たちは、レッドカーペットという偽りのレールの上ではなく、しっかりと地に足をつけて戦う集団へと、変貌を遂げたのだ。

「東北大会が俺たちの甲子園だ」

 福島成蹊との準決勝。2回表に先制を許しながら、その裏にすぐさま追いつき、3回には安打とバント、相手のミスにも付け込み2点を勝ち越した。4回以降も大技小技と手を緩めることなく相手に襲い掛かり、11-1の6回コールドと大差で試合を制した。それはまさに、監督が求めていた「貪欲に1点をもぎ取る野球」そのものだった。

 そして、光南との決勝にも勝利し“14連覇”を成し遂げた聖光学院は、監督が「かっこいい」と認めるチームとなった。

 喜びはある。同時に、優勝したからこその虚無感も、どうしたって襲ってくる。

 内山の言葉が、そのことを如実に物語っていた。

「校歌を歌っているとき、正直、『甲子園がないんだな』って寂しさはありました。センバツに出る予定だったチームは甲子園で交流試合もできるわけですし、『自分たちも……』って少しは頭をよぎりました。でも、東北大会まで開催していただいた自分たちも幸せなんです。そこに心から感謝していますし、『東北大会が俺たちの甲子園だ!』って気持ちは、自分も含めチーム全員が思っていることなんで。最後の最後までやり切ります」

 聖光学院は、有言実行してみせた。

【次ページ】 甲子園にふさわしいチームになれた。

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内山蓮希

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