ついヒントをオシムに貰いたいと考えてしまう。

「一昨年だったかな。羽生（直剛）が会いに行ったときに、オシムさんに『空は果てしない』という言葉を貰ったそうです。空は広いんだから、小さなことを考えずにもっともっとリスクを冒しなさいということだと思うんです。

　自分もそうですし、オシムさんに出会った人たちはみんな、何かヒントが欲しいときに、オシムさんから貰いたいと考えてしまう。それがちょっと情けなくもあるんですけど、自分の正直な気持ちでもあります。

　自分がオシムさんと一緒に過ごしていたときは20代前半だったので、入ってくる言葉もまだ意味がわからないことが多すぎたのですが、時がたってもう一回見直すと、『深いなあ』と思う。考えさせるメッセージを与えるのがもの凄くうまいなあと」

――何気ない言葉のなかにそういうものが織り込まれている。勇人さんは、そういう言葉をノートなどに書きとめていたのですか。それとも胸の内に刻んでいたのでしょうか。

「書かないです。書かないけど覚えています。何で書かないかというと、コーチの方たちがオシムさんの練習を自分のものにしたくてメモしていたら、もの凄く怒られていた（笑）。

　S級ライセンス講習で元日本代表の選手たちがたくさんオシムさんから学びたいと言って来たときも、みんなペンを持ってオシムさんの言うことを待っていたら、『そんなんじゃいい指導者になれない』と言われていたのを見ていて、自分の頭の中に入れなくちゃいけないんだな、と思いましたから」

――彼が言うには、選手たちが本当に言っていることをわかるようになって、自分たちでプレーできるようになったのは3年目になってからだったと。それはご自身でも思いますか？

「思います。だからこそオシムさんにはもっとクラブにいて欲しかった。やっと自分たちが理解しだしたときに日本代表の方に行ってしまったので、もっと学びたかったと。

　ただあのときは、『自分が日本から去るか、日本代表の監督になるかの二択だ』というオシムさんのコメントを聞いて、もう何でもいいから日本にいてくれと思いました。日本代表の監督でなくても、よそのクラブの監督でもいいから日本にいてくれと。それぐらい日本のために大きなものを残してくれていたので、日本から離れて欲しくなかったんです」