山田、加藤、福本の大豊作ドラフト。

　そして1968年のドラフトでは、今に至るもこの年の阪急を上回る年はないと言われる大豊作となった。

　ドラフト1位は通算284勝、MVP3回の山田久志（富士製鉄釜石）、2位は通算2055安打（阪急以外も含む）、MVP1回の加藤秀司（松下電器）、そして7位で2543安打、MVP1回の福本豊（松下電器）。同じドラフトで同一球団から名球会入りが3人出たのも、MVP獲得者が3人出たのもこの年の阪急だけだ。

　松下電器の同僚だった加藤と福本は、1年目の練習初日に運動靴で現れて、西本に雷を落とされている。ちなみに山田も含めこの3人はそろって西本の仲人で結婚式を挙げている。

　なお、このドラフトで阪急は12位でクラレ岡山の門田博光も指名している。門田はこれを蹴って1970年に南海に入団しているが、もし入団していれば名球会、MVP選手は4人になっていたところだ。

V9時代の巨人と5度戦ったが……。

　1967年に初優勝してから、1973年に退任するまで、西本は阪急を5回リーグ優勝に導いている。とき、まさに巨人のV9時代。西本は同世代の川上哲治率いる巨人と5回日本シリーズで対戦した。ともに50歳前後だが、そこまでの歩みは全く違っていた。

1967年　阪急　2勝4敗　巨人
1968年　阪急　2勝4敗　巨人
1969年　阪急　2勝4敗　巨人
1971年　阪急　1勝4敗　巨人
1972年　阪急　1勝4敗　巨人

　阪急は、巨人に全く歯が立たなかった。

　ただ率直に言って「相手が悪かった」と思う。

　筆者は巨人の先乗りスコアラーの先駆けである小松俊広さんに話を聞いたことがある。小松さんはシーズン中から阪急の試合を偵察して作戦や選手をデータ化した。特に福本豊は徹底的にマークした。シリーズ前には川上監督、捕手の森昌彦とともに周到な打ち合わせをしたという。分厚い偵察ノートも見せていただいた。

　つまり、戦う前に福本は丸裸になっていたのだ。

　巨人は対戦が重なり、データ量が増えれば増えるほど有利に戦った。「情報戦」という言葉はすでにあったが、巨人と阪急ではレベルが違った。

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