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<JTマーヴェラス 栄光までの5年間>
吉原知子が伝えた勝者の哲学。

posted2020/05/07 11:00

 
<JTマーヴェラス 栄光までの5年間>吉原知子が伝えた勝者の哲学。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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Takuya Sugiyama

 5年前、監督に就任したばかりの吉原知子は、入替戦に敗れて2シーズン目の2部リーグを余儀なくされ、自信を失っていた選手を前に、最初のミーティングで高らかにこう宣言した。「トップを獲りにいくよ!」。その言葉は今年1月、見事に実現する。いかにしてチームはどん底から甦ったのか。激闘の日々を追う。

 一瞬、耳を疑った。

「やれる準備は十分してきましたので、楽しみにしています。期待して下さい」

 バレーボール女子Vリーグファイナルステージ、上位4チームが対戦するセミファイナル前日会見の席上だった。全チームの監督、主将が揃った場なのだから、多少はリップサービスもあるだろう。そう思えば何の疑問も抱くことはない。

 ただし、発した主がJTマーヴェラスの吉原知子監督ならば、少々様相が異なる。

 試合中は表情を変えることなくベンチに座る。なおかつ、完璧に近い展開で会心の勝利を収めた後も、発する言葉は褒めるよりもまず「まだ課題がある」という指摘。

 その吉原が「期待して」と言うのだ。これはリップサービスではなく、確信だ。

 このチームは勝てる、と。

 そして2日後の1月26日。JTマーヴェラスは岡山シーガルズとの決勝戦をフルセットで制し、9シーズンぶり2度目の優勝。見事に、有言実行を果たしてみせた。

「一番になりたい」では獲れない。

 勝ってよかった。そう笑いながら、吉原は就任した5年前を振り返る。

「どうせ私たちはダメだ、とか、ブーブー言っていたんです(笑)。でもそこから『私たちはできる』という意識に変わっていった。『一番になりたい』と思っているうちは獲れないけれど、今年は『一番を獲る』と本気で狙いにいった。これ以上ない悔しさも忘れず、それぞれが覚悟を持って、成長して、今日を迎えることができました」

 すべての始まりは、2015年6月1日。

 体育館内の食堂には、尋常ではない緊張感が漂う。入団2年目のミドルブロッカー、小川杏奈は、完全にびびっていた。

「オフの日の朝、部長から電話がかかってきたんです。寝起きのぼーっとした状態で出たら『新しい監督が決まりました。吉原知子さんです』と。次の瞬間、え? あの日本代表の闘将ですよね、って。厳しい顔で戦っている印象しかないし、とにかく怖い(笑)。それからのオフも楽しめず、合宿所に戻る足取りはかなり重かったです」

 どれほど厳しい言葉を発するのだろう。身構えていた耳に飛び込んできたのは、想像を遥かに上回る、吉原が掲げた目標。

「このチームで、トップを獲りにいくよ!」

【次ページ】 蔓延していた「負け犬根性」。

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