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帝京大・中野監督の葛藤と危機感。
「来年の箱根駅伝は想像できない」

posted2020/04/17 11:00

 
帝京大・中野監督の葛藤と危機感。「来年の箱根駅伝は想像できない」<Number Web> photograph by Satoshi Wada

帝京大の中野孝行監督は2005年に就任、今年まで3年連続シード権を獲得するなど強豪校に育てた。

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和田悟志

和田悟志Satoshi Wada

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Satoshi Wada

 本来であればこの時期の学生長距離界は、ロードからトラックに舞台を移し、毎週のように各地で競技会が開かれている頃だ。だが、今年は新型コロナウィルスの影響により、シーズンインがなかなか迎えられずにいる。陸上競技に限ったことではないが、3月に入ってからは多くの競技会が中止や延期になった。

 おそらく多くの競技者が、戸惑いを抱えながらも、再び試合が開催されることを信じて、日々を送っていることだろう。

 この状況に当惑しているのは、指導者とて同じだ。

 政府により、東京都など7都府県を対象に緊急事態宣言が出された日の翌朝のことだ。私は帝京大駅伝競走部の中野孝行監督から1通のショートメールを受け取った。

 そこにはたった一言「することがない!」とだけ書かれていた。私は当初、その一言を“暇を持て余している”という意味と捉えた。そのメールに返信をすると、すぐさま中野監督から電話があった。そして、それは早朝から思わぬ長話になった。

「今何をするべきか、おそらく正しい答えってないんだよね。それに、答えは1つだけではないと思う。なぜなら過去にこのような事例はなかったわけだから。

 でも、みんながいろんな意見を出すことは必要だと思う。自分の意見を否定する人がいるのも当然だし、みんなが納得のいく結論は出ないかもしれない。ただ、意見を出すことで知恵は出る。だから、意見を言えるような雰囲気をつくることも大事なのかな……」

 中野監督は、指導者として、そして1人の人間として、未曾有の事態にどう向き合うべきか、葛藤を抱えつつも、真剣に頭を悩ませているようだった。

なかなかぴんと来なかった1月。

 1月中旬に日本国内でも新型コロナウィルスの感染者が確認されたが、この頃から帝京大では、手洗いうがい、マスクの着用など、箱根駅伝の前から行っていた感染症対策を引き続き徹底して励行してきた。

「国内の感染者数が増えてきていたので、インフルエンザ予防と同じような対応をしなければならないと思いました。(感染症対策は)うちにとっては当たり前のことなんですけどね。ただ、感染力に関しては、報道をチェックしていても、なかなかぴんと来ていませんでしたね、この頃は……」

【次ページ】 ニューヨークへ出発する日の朝に。

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中野孝行
帝京大学

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