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<ベイスターズをのぞいてみよう!>
データ野球を支えるIT革命の実態。 

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田村航平(Number編集部)

田村航平(Number編集部)Kohei Tamura

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photograph byAsami Enomoto

posted2020/03/19 19:00

<ベイスターズをのぞいてみよう!>データ野球を支えるIT革命の実態。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

ラプソードは1台約70万円。メジャーリーグではブルペンに設置されているところが多い。

スペシャリストがそろうR&D。

 ベイスターズのR&Dグループは、およそ2年半前にチーム戦略部長の壁谷周介によって設立された。メジャーリーグを視察したところ、どの球団にもR&Dと呼ばれる部署があってデータアナリストやバイオメカニストらが常駐していることを知り、吉川や八木といったスペシャリストを集めた。壁谷によると、R&Dグループの役割は大きく「編成、戦術、育成」の3つ。ベイスターズでは最新機器を、育成を中心に使っている。


「『マネー・ボール』で浸透したセイバーメトリクスは選手の評価に革新をもたらしましたが、育成に使うことはできませんでした。一方、近年はトラッキングデータによって選手のフィールド上の動きを測定できるようになり、これはパフォーマンスの向上にも使うことができます」

 しかし、いきなりデータを信じろと言われても、プロ野球選手は納得しないだろう。

 ピッツバーグ・パイレーツが統計データを使って20年連続負け越しの泥沼から脱却するまでを追った書籍『ビッグデータ・ベースボール』(トラヴィス・ソーチック著、桑田健訳)でも、当初はA・J・バーネットらベテラン選手が改革に反発する様子が書かれている。同様の雰囲気が、ベイスターズにもあった。

「最初はプロ野球経験のない職員が口を挟むことに対して、チームの中には違和感もあったと思います。それでも、私たちもチームに価値を与えられることを証明して、一方で選手の感覚もリスペクトすることで、徐々に距離は縮まってきました」

重要なのは、データを生かす指導。

 また、いくら最新機器を使ったところで、得られたデータを選手が理解できなければ意味がない。R&Dグループの仕事が成果を上げる上で、重要なのはコーチの存在だという。

「新しい機器を導入したら、どういうデータが取れて、何がわかるのかという研修をコーチ陣に向けて行っています。オフには大学教授を呼んで、動作解析の分析内容を勉強しました。どんなにデータを充実させても、最後は選手が理解できるかどうかなので。そのためには、われわれが分析用語で話したものを、コーチが野球用語に変換して選手に伝えられなければなりません」

 壁谷が、キーマンの名前を挙げた。

「その点、各コーチの理解は進んでいますが、特に大家友和コーチの存在がアドバンテージになっています」

 吉川や八木も、「大家さんはすごい。どこで知識を得たのか……」と感心していた。大家は京都成章高から、1994年に横浜ベイスターズに入団。5年で退団して渡米、約10シーズンをメジャーリーガーとして過ごしている。ブルペンで若手選手の指導に当たる、ファーム投手コーチの大家を直撃した。

「独学ですよ。僕としてはそんなに難しいことをやっているつもりはありません」

 大家は、こともなげに言う。

【次ページ】 アメリカで「数字」を学んだ大家。

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