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橋本真也の『爆勝宣言』誕生秘話。
「ボンバイエを超える曲を作れ!」 

text by

堀江ガンツ

堀江ガンツGantz Horie

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photograph byAFLO

posted2020/02/18 08:00

橋本真也の『爆勝宣言』誕生秘話。「ボンバイエを超える曲を作れ!」<Number Web> photograph by AFLO

若き日の闘魂三銃士。彼の入場テーマ曲を耳にすれば、当時の雄姿はすぐに蘇る。

持ってきたレコードは……。

「それが、映画『フットルース』のサントラ盤だったんです。選曲をやる人間からすると、有名な映画のサントラなんて一番安易で、それこそトップに立つ男が使うようなもんじゃないと思うんですけど……。しかも、そのアルバムの中の『ネバー』っていう、元ピンク・レディーのMIEがカバーしてたあの曲ですよ(笑)」

 そして破壊王は、次のテレビ中継がある大会で『ネバー』をかけて入場。場内には、ドラマ『不良少女とよばれて』の主題歌でもおなじみの「♪ネバ、ネバ、ネバ、エバ~~」というフレーズが大音量で響き渡り、案の定、会場は微妙な空気になった。

「本人もその空気を敏感に察知したのか、試合後すぐに、汗も拭かずに僕が音楽出ししていた体育館の2階に上がってきて、開口一番、『すいませんでしたぁ! 言うこと聞きますから、俺に合った曲を選んでください!』って頭下げるんですよ(笑)。それで仲直りみたいな感じになって。僕のほうから『じつは、いまモチベーションが高まるようなフレーズを自分の中で温めてるんだけど、それを1つの曲にしてテーマ曲を作ったら、使ってくれる?』みたいな話になって、そうやって生まれたのが『爆勝宣言』だったんです」

 この『爆勝宣言』制作時、橋本は同い年でなんでも言い合える仲になっていた鈴木に対し、「おまえも音楽家なら、『(猪木)ボンバイエ』を超える曲を作ってみろ!」とハッパをかけ、平成の時代を代表するプロレス入場テーマ曲はできあがったのだ。

一時お蔵入りになった『HOLD OUT』。

 その後、鈴木修は武藤敬司の『HOLD OUT』も作曲し発表。この曲もファンから絶大な支持を受けたが、破壊王のせいで一時お蔵入りになったことも知られている。

「橋本選手は各選手のテーマ曲に勝手に歌詞をつけて、控室でよく歌ってたんですよ。あれはテーマ曲を作った人間にとって、本当に迷惑でね。カッコイイ曲を作っても、橋本さんのとんでもない歌詞のおかげで、曲のイメージが変わっちゃうんですよ。なんせ武藤さんのテーマ曲に合わせて『♪む~と~ちゃんはハゲる~』とか歌ってたわけですからね(笑)。

 プロレスラーっていうのは、自分の入場テーマ曲を聞いて気持ちを高ぶらせてリングに向かっていくわけじゃないですか。でも、武藤さんは、その大事な気持ちを高ぶらせるときに、橋本さんの歌詞がどうしても頭に浮かんじゃうってことで『申し訳ないけど、テーマ曲変えさせてもらうから』ってことになっちゃったんですよ。もう、僕からしたら、悔しくて悔しくて。だから橋本選手に『あんたのせいだ!』って言ったら、さすがに『申し訳ない』とは言ってましたけどね(笑)」

 そのテーマ曲への異常なこだわりから名曲『爆勝宣言』を生み、その度を超えたイタズラ心で、もう1つの名曲『HOLD OUT』を封印させた、お騒がせ男の橋本真也。

 彼が亡くなったあと、武藤は『HOLD OUT』を復活。今もプロレステーマ曲屈指の名曲としてファンに愛されている。そして武藤の入場時、『HOLD OUT』を聴くたびに、ファンはあの闘魂三銃士の時代を思い出すのだ。

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