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イングランドはなぜ敗れたか。
エディーを飲み込んだラグビーの力。

posted2019/11/09 20:00

 
イングランドはなぜ敗れたか。エディーを飲み込んだラグビーの力。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

ラグビーへの愛が充満したW杯で、イングランドだけが異なる戦い方をしていたと考えることで見えてくるものがある。

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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Naoya Sanuki

 なぜ、イングランドが負けたのか。

 それをずっと考え続けている。

 準決勝でオールブラックスを抑え込んだ試合を見せられ、決勝でも当然ながら有利と予想した。

 エディー・ジョーンズなら、南アフリカの弱点をあぶり出すはずだと。

 しかし、決勝は南アフリカの「フィジカルモンスター」ぶりと、「ディフェンス愛」を表現する場となった。

 世界的に問題になったのは、表彰式でのイングランドのふるまいである。

 4番ロックのイトジェはイングランド代表の先輩で、同じロックでもあったワールドラグビーのボーモント会長からメダルを首にかけてもらうのを拒否した。

 開始早々にイトジェと衝突し、脳震盪で退場を余儀なくされた3番プロップのシンクラーも似たようなふるまいをした。

 コーチの一部も。

 彼らは負けたのに、負けを受け入れられなかった。

NZとウェールズはラグビーの喜びを示した。

 私はその前夜、3位決定戦で見たニュージーランドとウェールズの2チームの「さわやかさ」がとても印象に残っており、イングランドのふるまいに衝撃を受けた。

 3位決定戦は、「コンソレーション・マッチ」と呼ばれる。

 慰めのための試合、くらいの意味だろうか。正直、あまり価値はない。

 ただし、今回ニュージーランドはその試合に価値を与えた。

 オールブラックスの主将、キーラン・リードは試合前にニュージーランド国歌を歌ったあと、柔らかな笑顔を見せたのだ。

 黒衣を着て戦う最後の試合。それが3位決定戦の場であっても、楽しむという思いが伝わってきた。ヘッドコーチのスティーブ・ハンセンの並々ならぬマネージメント手腕が想像できた。

 そして長年オールブラックスを支えてきたにもかかわらず、準決勝のイングランド戦ではメンバーから外されたWTBのベン・スミスは超人的な働きを見せた。

 必要だったのは、俺だったんじゃないのかな? ハンセンHCに対する強烈なメッセージのようにも思えた。

 この試合でオールブラックスから離れるCTBのソニー・ビル・ウィリアムズも、ライアン・クロッティも見事なパフォーマンスを見せた。

 彼らはラグビーをする喜びを、「慰めの試合」で思いっきり表現した。

【次ページ】 子どもを抱えて笑顔で話す選手たち。

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