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秀才大学院生が目指す箱根駅伝。
予選会出場までの苦労とその意義。 

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雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph byKeigo Amemiya

posted2019/11/01 08:00

秀才大学院生が目指す箱根駅伝。予選会出場までの苦労とその意義。<Number Web> photograph by Keigo Amemiya

練習に多くの時間を割けない中、見事全員が完走を果たした東工大院生チーム。レース後は缶ビールで乾杯!

「来年? 出てるかもしれないです」

 毎日のように授業があり、研究があり、論文の準備がある。集まれるのはせいぜい週1回。それも全員が揃うことはほとんどない。大会プログラムに掲載されたチーム写真も集まっているのは7人だけで、残る3人は別枠で顔写真だけ。卒業アルバムのクラス写真状態である。

 そんな風に他のメンバーも時間がないのを知っているからこそ、白髪は一肌脱ぐことにした。

「院生チームはまず出ることに意味がある。他の人たちも研究で忙しい中で標準記録を切ってきている。あと1人参加することでこの大会に出られるのであれば、僕は協力しようと思いました」

 2年前に拓大で予選会に出場したときは20kmを1時間1分6秒、全体の91位で走り切った。ハーフマラソンとなった今回は完走した501人中483位。20kmの通過タイムは1時間14分42秒と大幅に落ちていた。だが常連校で走るのとは違う爽快感もあったという。

「拓大は強い学校なので沿道から応援されるのは普通だけど、東工大の院でもいっぱい応援してもらえて新鮮な感じはしました」

 来年はどうする? と聞いてみたら「出てるかもしれないです」と笑って言った。

院生たちのモチベーションは?

 400mや800mが専門の芝江柾葵(まさき)は、20km以上を走ったのはこの予選会が人生で2度目だった。就活中の身分とあっては駅伝用の突貫調整もままならず、短距離仕様の体で挑まざるを得なかった。

 周囲も本人も完走できるとは思っていなかったが、それでもスタートすればゴールまで走り切ってしまうのはランナーの意地だろうか。「800mとしんどさが全然違う。終わらない、とにかく」と嘆きながらも、芝江を含めた10人全員が完走したことでチーム記録を残すこともできた。

「同期の塩田(匠)は学連に選ばれるかもしれない実力を持っているんです。だったら同期にぜひ箱根に行ってほしいなと」

 芝江は予選会に参加した理由をこう語った。院生チームの大きなモチベーションがここにある。

『関東学生連合』は本戦出場を逃したチームの中から上位の選手たちを選りすぐって結成される特別チーム。正月の箱根路で各校と競い合うこのチームに、院生も予選会のタイム次第で加わることができる。

 新美惣一朗主将もそこをチームの目標の1つに挙げた。

「院生にとってこの予選会は1年の大きな目標です。まずは出場すること。あとはエースの塩田に、できれば連合チームで頑張ってほしい、箱根を走ってほしいという気持ちがありました。だからまず10人でスタート地点に立つことを考えました」

 残念ながら塩田は学生連合に選ばれるにはタイムが足りなかったが、過去には東大大学院の依田崇弘が2011年大会(第87回)でメンバー入りしたこともある(本選では補欠に回って出場はしなかった)。しかも当時の依田は博士課程。院生の学生連合入りは絵空事ではないのである。

【次ページ】 2年ぶりに出場した東大大学院。

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