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伝説のヨットマン、最後の大勝負。
セールGPはヨットのF1になれるか。 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byYuki Suenaga

posted2019/10/25 15:00

伝説のヨットマン、最後の大勝負。セールGPはヨットのF1になれるか。<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

早福和彦(右)と笠谷勇希(左)。日本にヨットレースを観るという文化を根付かせる戦いが始まる。

時速100キロで水上を走る緊張感。

 セールGPは、多くの点で、アメリカズカップの真逆を行っている。賞金はヨットレースでは破格の100万ドル。優勝チームが総取りする。

 また、見せることに徹底的にこだわった。船は全チームがF50というカタマランを使用する。早福が「今、地球上でもっとも洗練されているヨット」と話すように、いい風をとらえることができれば最高時速は50ノット(約93キロ)を超える。

 日本チームの1人である笠谷勇希は、その体験をこう表現する。

「50ノットを超えてくると、船が悲鳴をあげるというか、細かい振動が出てくる。速く走れるよう船は極限まで軽量化されているので、どっかしら壊れるんじゃないか、って。着水したときの衝撃もすごい。緊張感、ありますね」

 また、セールGPはライブ中継のための専用アプリを開発し、映像はF1中継を手掛けるウィスパー・フィルムが担当する。実際の映像とグラフィックを融合した躍動感のある動画に、各国の言葉で実況中継が入る。

 ファーストシーズンはシドニー、サンフランシスコ、ニューヨーク、カウズ(英)、マルセイユの5都市を回ったが、ゆくゆくは参加国を10カ国にし、各国を転戦する予定だ。2021年にはすでに日本開催も決まっている。今は開催地を検討している段階だ。

資金も運営が提供、船員も優遇措置。

 大規模なヨットレースには、常に資金の問題がついて回る。アメリカズカップともなれば100人前後の大所帯にならざるをえず、一度の挑戦で数十億もの費用がかかる。セールGPは、その点も大幅に改善した。

 船は前述したように新リーグから提供される統一デザインのものを使用する。そのため、もっとも負担となる開発費がかからない。船の修理や運搬作業も大会スタッフが一括して行う。

 また、現地での食事や宿泊施設等の手配も運営サイドの仕事だ。そのお陰で、日本チームのスタッフはクルーを含めて17人にまで絞ることができた。その上、スタート時に選ばれた6カ国は最初の5年間、チームが負担すべき約7億円も大会サイドが出資してくれる。

 じつは日本と中国はもう1つ優遇措置を受けている。セールGPの船員は全部で5人だ。原則、そのチームの国籍者でないと乗船できない。しかしヨット新興国である2カ国には、段階的な措置がとられた。1年目は2人、2年目は3人と、1年ごとに国籍者を増員し、4年目に全員がその国の選手になればいい。

 日本は今季、2位と躍進したが、最大の要因はスキッパー(船長)にオーストラリア人のネイサン・アウタリッジを起用できたことだった。彼はセーリング競技の「49er級」でオリンピックのゴールドメダリストになったほどの実力者である。

 セーリング競技において、もっとも重要なポジションは言うまでもなくスキッパーである。

【次ページ】 「海を見るとホッとするでしょう?」

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早福和彦

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