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昨年より地味でも、昂揚した決勝戦。
改革なら甲子園を面白くする方法で。 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2019/08/30 07:00

昨年より地味でも、昂揚した決勝戦。改革なら甲子園を面白くする方法で。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

履正社と星稜、力が拮抗した素晴らしい決勝戦だった。投手の起用法について考える時も、ここがスタート地点なのだ。

エースを休ませることは人気と両立できる。

 結果的には、星稜は3-5で敗れた。だが、一時はリードするなど、最終回までどうなるかわからない好ゲームとなった。

 この好勝負を演出したのは、一にも二にも、絶対的なエースの奥川を休ませつつ起用した監督の林和成の采配である。

 甲子園の決勝はじつは、昨年の例だけでなく、大差のゲームとなることが多い。もちろん組み合わせの綾もあるが、目の前の1勝に執着し1人の投手に頼りすぎるなど、どちらかのチームが極端に疲弊している場合が多いからだ。

 林の大局観は、1つのことを証明した。戦略的なエースの起用法は、投手の体を守るだけでなく、観衆の関心を引くことにもつながる。どの試合にも十分、勝利を期待できる布陣で臨めるからだ。

高校野球のあり方を叩いても得るものは少ない。

 高校野球は極めてすぐれたエンターテイメントだ。その希少性をまったく無視し、ただ声高に高校野球のあり方を叩くという近年のメディアの傾向には正直、閉口せざるを得ない。もっと言えば、そういうスタンスから論じる方策は現実味が薄いし、力を持たないと思う。

 投手の球数を制限することについては、現場から「野球がおかしくなる」「甲子園がつまらなくなる」といった声をよく聞く。だが、もはや何らかの方策を打ち出さなければならない時期に差し掛かっている。

 ただ、どのような方法で制限を設けるにせよ、甲子園がよりおもしろくなるような網のかけ方はあると思うのだ。

 選手の体を守りつつ、高校野球の興行的な魅力も維持する。今年の決勝を見て、その2つを両立する道はきっとあると思えた。

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奥川恭伸

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