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富樫勇樹の原点は恩師の言葉。
「バスケ界のカズになれ」 

text by

石川歩

石川歩Ayumi Ishikawa

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photograph byB.LEAGUE

posted2019/04/22 17:00

富樫勇樹の原点は恩師の言葉。「バスケ界のカズになれ」<Number Web> photograph by B.LEAGUE

試合当日は秋田・水町亮介(中)の引退セレモニーも行なわれ、元チームメイトの千葉・富樫勇樹(左)と田口成浩(右)が花束を贈呈。

富樫が秋田に負けたくない理由。

 一方で、勝利の決定打を放った富樫は、反省の多い試合だったと振り返る。

「あの試合で秋田はとても良いプレーをしていました。特に前半はずっと秋田ペースだった。僕たちはあの試合に、完全に集中しきれていなかったように感じます。それが原因で秋田に良いプレーをさせてしまった側面があったと思う。

 秋田は、僕が千葉以外では日本で唯一プレーしていた思い入れのあるチームで、絶対に負けたくない。だから、あの試合に勝ててすごく嬉しかったです。僕が秋田に負けたくないもう一つの理由は、田口が千葉にいること。彼が人生最大の決断をして千葉に移籍してきたのを、僕は知っているから」

 1つ1つのプレーを祈るように見守り、チームの勝利を信じた秋田のブースターと、その応援に鼓舞され、応えた秋田の選手たち。自分を育てたチームだからこそ、積み重ねてきた力を発揮して勝利への執念を見せた富樫と田口。あの熱狂に詰まっていたのは、体育館にいた人たちが発するずしりと重たい勝利への思いだった。そして、最後の0.3秒までどちらにも希望があったくらいに、その思いは拮抗していたのだ。

富樫少年の目標はメッシ。

 中村は、幼少期から富樫の才能に気がついていた。

「勇樹はバスケの感性が違う。それは持って生まれたもので、誰にも真似できない、バスケに選ばれた子だ。小学生の勇樹に目標の選手を聞いたら、サッカーのメッシと答えた。よく見るとメッシと勇樹は似ていて、常に周りを見渡して、ボールが来る前から動きを予測している。勇樹は自分なりに考えて判断することができるから、読みがいい。それに、運動能力が抜群に高い。子どもの頃から体幹が強いんだ」

 富樫は中学卒業後、アメリカのモントローズ・クリスチャン高校への進学を選んだ。この進路について、中村は富樫にあるアドバイスをしている。

「僕は勇樹に、『バスケ界の三浦知良になれ』と言っていた。早めに留学して話題性をつくれば日本の子どもたちがバスケをするから、と。最初、勇樹と勇樹の母親はアメリカ留学に乗り気ではなかった。それで僕はアメリカに行って、高校の授業や練習風景をビデオに撮って勇樹に見せたんだ」

 富樫は、当時をこう振り返る。

「最初は、カズさんの提案を冗談半分・本気半分で聞いていました。そもそも日本を出る、という選択肢があることにびっくりしたのを覚えています。最終的には、自分で行くと決めました。いまプロ選手になって、日本代表でもプレーできているので、結果的にアメリカに行って良かったです。

 アメリカでは、試合に出られなくても、最初の3ヶ月をYESとOKだけで過ごしても(笑)、そんなにストレスは無かったです。すぐに試合に出られると思って行ってないので、プレータイムがないことに焦りは無かった。日本人は僕1人だったので、もしかしたら孤独だったのかもしれないですが、それを辛いと感じずに過ごしていました。向こうの環境とバスケットボールに慣れて、英語が話せるようになってから試合に出られるようになりました」

【次ページ】 「富樫勇樹だぞ、取るべきだろう」

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