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プロ野球ファンサービスの実態と、
ある選手がカープ少年だった頃。 

text by

永田遼太郎

永田遼太郎Ryotaro Nagata

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photograph byKyodo News

posted2019/02/21 08:00

プロ野球ファンサービスの実態と、ある選手がカープ少年だった頃。<Number Web> photograph by Kyodo News

中日の松坂大輔がファンとの接触によって右肩を痛めたことから、ファンサービスの在り方で議論がまき起こった。

「ついで」のサインも応じて。

 みんな誰だって少年、少女期を経て大人になる。その成長曲線は人によって様々だし、それぞれの時間を生きていれば、知識や経験も大きく変わる。

 それがいつしか個性へと変わる。高野はそういうことも理解して、この発言を口にしたのだろう。

 もちろん筆者は取材で球場に通っている身なので、千葉ロッテであれば育成選手やスタッフの顔に至るまで顔と名前が一致している。そういう熱烈なファンも、もちろん多くいることだろう。

 一方で、球場に詰めかけるファンの全てがそうしたファンであるかと問われたら、けっしてそうではないし、高野が言うように、顔と名前が一致しないビギナーファンも大勢いる。当然、選手がただ通りかかったからと言って「ついで」のサインをもらうファンだって多くいることも彼はもちろん承知だ。

 だが、高野はそれを「マナー違反」だとは思わない。むしろ当たり前のことだと思っている。

 それよりも1人でも多くのファンに自分のことを知ってもらい、また球場に遊びに来てもらえるよう、自分が今、できる最大限で応えたいと考える。こんなこと誰でもが出来ることではない。高野圭佑の人間力を改めて知った。

「サインください」は嬉しい。

「サインができるときであれば、できる限り書きますよ。僕としてもやっぱり『サインください』と言ってくれるのが嬉しいですからね。もちろん時間がなくて、その希望に応えられないときもありますが。でもせっかく僕らに興味を持って、球場に来てくれているんでね。仮に僕がファンとして球場に来ていて、目当ての選手からサインをもらえなかったら、それも寂しいですから」

 彼の話を聞いているうちに、自分が少年時代、球場に通い、選手達にサインを求めていた頃を思い出した。そのときの選手の顔、対応する姿、それを30年以上経った今でも鮮明に覚えている。高野はそういう思い出を大切にしようとしているのだ。

 高野ほどではないにせよ、彼の言っていることは、おそらく千葉ロッテ、いやプロ野球選手全員の総意だ。彼らの近くで取材しながら、そう感じている。

 そして1人でも多くのファンに素敵な思い出が作られていくことを心の底から願って。

 そんな選手たちの心情を少しでも理解してもらえたらと、今回、ペンを走らせた。

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