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春になると思い出す衣笠祥雄の金言。
「高校の頃が野球が一番楽しかった」 

text by

安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph byKyodo News

posted2019/01/16 07:00

春になると思い出す衣笠祥雄の金言。「高校の頃が野球が一番楽しかった」<Number Web> photograph by Kyodo News

衣笠祥雄さんですら開幕は「怖かった」という。プロ野球とは厳しい世界である。

出来ることが増えると、失うのが怖くなる。

「わからなくて、迷って、混乱して、絶望もしましたねぇ」

 ほんとですか? と訊くと、

「プロに入って、少しずつ出来ることが増えていって、成績も上がって、いつのまにか出来ないことがほとんどなくなってきて、そうすると今度は、去年出来ていたことが、今年も出来るのか……って怖くなるんです。

 ファンの方たちは、衣笠、今年も打ってくれるんだろう! って期待してくださる。それは自分でもわかってる。でも、バッティングなんて、要は“感覚”ですから……。マニュアルなんてないんですから、こうやって打てば打てますなんて保証はないんですよ。何かの拍子に打ち方忘れてしまったら、打てないんですからね」

 食後のコーヒーも、カップに半分ぐらいにしておられた。

「去年まで出来ていたことが、今年も同じように出来るのか? こんなに怖いことはありませんよね」

「高校の頃がいちばん楽しかったですよ」

 お迎えの車が来る時間になり、席を立って最後にこうおっしゃったひと言が忘れられない。

「高校の頃の、あれもこれも出来なかった頃がいちばん楽しかったですよ……」

 私ひとりで聞いてしまうには、もったいなさ過ぎる話だと思った。

 野球が難しくて、出来ることより出来ないことのほうがずっと多くて、迷い、悩み、苦しんでいる。

 自分のことをそう思っている中学生、高校生、大学生にこそ聞いてもらえれば……。そんなかけがえのない金言をいただいたと思っている。

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衣笠祥雄

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