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伊調馨のラスト10秒逆転劇を呼んだ
第1ピリオド、川井梨紗子の「1点」。 

text by

布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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posted2018/12/25 17:00

伊調馨のラスト10秒逆転劇を呼んだ第1ピリオド、川井梨紗子の「1点」。<Number Web> photograph by AFLO

鮮やかな逆転劇を見せた伊調馨。普段はクールだが、今回の勝利の瞬間は表情を崩した。

第2ピリオドに入ったスイッチ。

 その間、伊調も1点を返すが、反撃はそこまで。試合終了間際には遠い距離からのタックルを狙ったが、川井を捉えるだけのキレもスピードも感じられなかった。それ以前に体の線の細さも気になった。

 いくら2カ月前の女子オープンで復帰したとはいえ、現役世界王者を相手にしたら2年間のブランクは大きい。そう思わざるをえない試合内容だった。

 ここで新旧女王対決はジ・エンド。そう思った矢先に伊調は南條早映との予選リーグ第2戦を迎えた。南條はJOCエリートアカデミーでは須崎優衣の同期で、一昨年には全日本選手権55kg級でも優勝している期待のホープだ。接戦が予想される中、南條は第1ピリオドで伊調の体を反転させ2ポイントを奪う。

 ところが、第2ピリオドに入ると、伊調に突然スイッチが入った。場外に相手を押し出すと見せかけ、バックに回る。相手がタックルに来ても、触らせることなく鮮やかに切る。その動きはオリンピックで活躍していた頃の伊調のそれと限りなく近くなっているように思えた。

気鋭の花井を下して再戦。

 結局予選リーグ2位で決勝トーナメントに進出した伊調はもうひとつの予選リーグを1位で通過した花井瑛絵と激突した。南條同様、花井も大学生ながら一昨年から全日本選手権や全日本選抜選手権で常に上位入賞を果たしている新進気鋭のレスラーだ。

 とはいえ、勝負の勘を取り戻しつつある伊調の敵ではなかった。白眉は第2ピリオド。伊調は片足タックルを仕掛けると、花井も粘ってなかなかテイクダウンを許さない。

 そうすると伊調は片足を持ったまま落ち着いてマット中央へ移動し、軸足を払ってバックを奪った。もう一方のブロックでは川井が当たり前のように勝ち抜いてきたので、今度は決勝で再び新旧女王が相まみえることになった。

【次ページ】 川井の1点が分岐点に。

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