野ボール横丁BACK NUMBER
金足農の優勝条件は吉田輝星だった。
直球にかけた希望と、限界の到来。
posted2018/08/21 19:45
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
6回表のマウンドに、決勝の主役候補の姿はもうなかった。
大阪桐蔭を相手に、5回12失点。この夏、初めてマウンドを譲った金足農の吉田輝星は言う。
「ボコボコに打たれたのでしょうがないです」
戦前の勢いは、明らかに金足農の方が上だった。
試合前、大阪桐蔭の西谷浩一監督も、こう自嘲気味に話していたものだ。
「昨日の晩から、今日の朝まで金足農の報道ばっかり。大阪桐蔭はほとんどなかった。1回から9回までアウェーの覚悟です」
ただ、春の王者は、とてもではないが勢いだけで勝てる相手ではない。
金足農が勝つための条件――。
それは、吉田が、これまででいちばんいい投球をすることだった。
現代医学的常識から言えば限界を……。
昨晩、吉田は帽子のつばの裏に、荒々しい字でこう書き込んでいた。
「マウンドは俺の縄張り 死ぬ気の全力投球」
もちろん、疲労はある。吉田は秋田大会からここまで1人で10試合投げてきた。しかも、吉田は球数が多い。秋田大会では10日間、5試合で計636球。1試合平均は約127球だ。甲子園ではさらに球数が増えた。13日間、5試合で計749球。1試合平均は、約150球。現代の医学的常識から言えば、とっくに限界を超えている。
だが、ときに人は医学を超えることがある。過去、この常識を覆し「決勝再試合がいちばんよかった」と語った投手がいる。
2006年夏、決勝再試合を含む計7試合をほぼ1人で投げ抜き、早実を全国制覇に導いた斎藤佑樹(日本ハム)である。