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「グローブ・イップス」の恐怖とは。
国を越えて野球を仕事にする難しさ。 

text by

田中大貴

田中大貴Daiki Tanaka

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photograph byKyodo News

posted2018/06/24 11:00

「グローブ・イップス」の恐怖とは。国を越えて野球を仕事にする難しさ。<Number Web> photograph by Kyodo News

メジャーから日本に復帰した野手が軒並み数字を落とす中、青木は6月20日時点で打率.279、出塁率.372と高水準を維持。

精神的タフさこそが西岡の最大の魅力。

 長く野球に携わり、野球選手への取材もしてきたはずでした。この西岡選手の説明を聞いて、アメリカ球界への対応がいかに至難の業であるか、そして目に見えない恐怖と背中合わせであるかということを改めて教えられました。

「メジャーの打球を、特に内野で体感する打球を、いかに捌くか。アメリカで生きていけるかどうかはここだと思います」

 スプリングトレーニング中、早朝からグラブを出す練習を何度も行う西岡選手の姿には、鬼気迫るものがありました。

 グローブ・イップスという病ともいえる症状と向き合い、怖さに立ち向かっていく精神的タフさこそが、日本球界に復帰した今も彼の最大の魅力であると、僕は強く感じています。

青木宣親「ボールが小さく感じる」

 アメリカで一度スタイルを作り、日本では感じられなかったハードルを超えてきた選手が、再び日本に戻ってくる流れができている近年。

 一度アメリカ仕様にした技術を再び日本仕様に戻す難しさは、内野の打球処理だけではありません。

 今年、東京ヤクルトに復帰した青木宣親。

 春季キャンプから身体を絞り、20代の頃のような体のキレで練習に打ち込む36歳。天才的なミート力は大リーグでの6年間でさらに磨かれ、技術の上積みは相当なものがあると予想されました。

 しかし、当の本人は「戻ってきて、向こうと何が違うか……うーん、技術というより、単純にボールがもの凄く小さく感じる。視覚的な問題が大きいんですよね」。

 日本のボールが小さく感じる。

 メジャー球に慣れ、大リーグの投手の球速、球筋や回転数、軌道を見続けてきた青木選手。そこにアメリカ独特の日差しと照明の明かりという要素が絡み合い、錯覚かのように日本の投手が投げるボールが小さく感じるのです。

 一度体に染みついた視覚的感覚や精神的感覚を、その時プレーしている舞台にアジャストさせる難しさ。これは、単に技術を磨けばいい、道具を変えればいい、身体を鍛えればいい、では乗り越えることができない、想像を絶する困難を極める作業なのです。

【次ページ】 上原浩治ですら、日本適応に苦しんでいる。

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