横浜ベンチが慌て、構えも変更。

　平石の意図はNHK側に正確には伝わらなかったが、その誤解を解こうとしなかったのはなぜか。自分たちの夏はこの試合で終わっても、PL学園の野球は続く。「三塁コーチが声を出しても気にする必要はない」と気づかせないための深慮だった。その母校野球部も事実上、歴史を終え、もはや誤解のままにしておく理由もなくなったのだ。

　平石のねらいは的中した。小山は松坂が打たれる理由を考えに考えた。「声」にも気づいた。そのあたりは松坂が記憶している。

「周りが敏感に反応していました。小山が（最も）意識したんじゃないですか。そこ（構え）しかないだろうと。僕がああしろ、こうしろと言った覚えはないですが、本人にその自覚があったんだと思います」

　原因究明までも含め、横浜ベンチが相当にあたふたしたであろうことは、20年経った今でも想像に難くない。それほどまでに松坂が序盤から打ち込まれるのは衝撃的だった。

松坂が今明かす、不調の理由。

　3回から小山は構えを変えたが、この試合に詳しい読者はこう思うはずだ。「4回にも3連打で1点を奪っている」と。いや、そもそも球種を伝達していなかったのなら、なぜ2回は打たれたのか。今度は松坂が明かす番だ。

「午前2時くらいまで全然寝られなかったんです。PL戦だからって気が高ぶったわけではないんですが。バスが出発して、途中で寝てしまったんです。ウォーミングアップでは体が全く動かず、ブルペンでも全然いかず……。やばいな。そう思ったまま試合が始まってしまいました」

　甲子園慣れしている横浜は、第1試合でも開始4時間前に起床し、移動時は眠らないという方針を徹底していた。つまり、この朝は4時30分起床だったのだが、松坂はうとうとした程度だった上に、大阪市内の宿舎から球場へ向かう車中で眠りに落ちた。典型的なコンディション不良。被安打13のうち、7本を2、4回に浴びているのは寝不足が原因だったのだ。

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