プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
ザ・グレート・ムタと武藤敬司が休業!
人生最後のムーンサルト・プレスを。
posted2018/03/29 10:45
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
「階段を見ると、すぐにエレベーターを探してしまうんだよ」
武藤敬司のヒザはそのくらい悪い。武藤が普段、歩いている姿を見ていると、よくこれでリングに上がれるなあ、と思ってしまうほどだ。その化身であるザ・グレート・ムタも当然、ヒザが悪い。
15年以上前だろうか、武藤に聞いたことがある。
「カメラに向かってシャイニング・ウィザードができるかな?」
返事は「できない」だった。
「歩くのも大変」と言いながら……飛ぶ男。
当時でも、ガチガチにテーピングをして、リング上で大勢のファンに見られているからこそ、その「勢い」でやっていたのだ。普段の状態からいきなりシャイニング・ウィザードを、たとえ「格好だけ」でも繰り出すことは、その頃からもう不可能になっていた。
それくらい武藤のヒザは壊れていた。
「歩くのも大変ですよ」
といつも言うわりには、武藤はリングに上がれば、その悪化したヒザを使ったシャイニング・ウィザードを繰り出して、さらにヒザに負担がかかるはずのムーンサルト・プレスまでやってのけていた。
プロレスラーの性なのだろう。
リングに上がって、ライトに照らされて、観客の視線を浴びる。熱い声援が飛ぶ。その効果に、動けないはずの自分の体が自然に動いてしまうのだ。そんな馬鹿な――と多くの一般の方々は思うかもしれないが、この類のことは何度も見てきており、本当に事実なのである。
だが平成30年、そんな武藤のヒザは、ついに限界に達してしまったようだ。