相撲春秋BACK NUMBER
日馬富士が凝縮された優勝翌日会見。
「いい見本と基本になってあげたい」
posted2017/10/02 07:00
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Kyodo News
本割、決定戦と大関豪栄道を破り、日馬富士の逆転優勝で幕を閉じた大相撲秋場所。白鵬、稀勢の里、鶴竜の3横綱が休場するなか、ひとり土俵に上がり続けた横綱は、満身創痍の体を気力で支えていた。
序盤に3連敗。4つもの金星を与えてしまうほどにその体は悲鳴をあげ、苦しい15日間であったことは想像に難くない。しかし、最後の最後――土俵際で横綱の「心技体」を見せ付けてくれたのだった。
白鵬のように、圧倒的な“華”をまとわない、古武士のような佇まい。口を開いても、決して饒舌ではない。しかし、優勝9回目の会見時、時にユーモアを交えながらも、抑制されたその言葉の数々に、横綱の「苦渋」「矜恃」をにじみ出させる。クレバーな“チカラビト”だ。
千秋楽翌日に開かれた優勝一夜明け会見の一問一答、たった15分のシンプルな会見に、まさに日馬富士という力士が“凝縮”されていたように思う。決して大きくはない体。立ち合い鋭いスピード勝負で、いまだかつてない15日間を乗り切った直後の会見は、ゆっくりと、日も高い正午に設定された。
正午を数分過ぎた頃、伊勢ヶ濱部屋の稽古場に現れた横綱は、今か今かと待ち構えていた報道陣の前を横切り、まるで祈りを捧げるかのように神棚に手を合わせた。
カメラのフラッシュを浴びながら、会見が始まる。
そうですね、まぁ……疲れました。
――一晩経って、改めてどういう心境ですか?
「そうですね、まぁ……疲れました」
――これまでの優勝とは、やはり違うものがありますか?
「優勝は優勝なので喜びは一緒です」
――昨日のお酒はひと味違う部分も?
「優勝すると飲む酒も美味しいので、美味しくいただきました」