相撲春秋BACK NUMBER
“偉大なる長兄”の後に続く高安。
稀勢の里に寄り添い一気に大関取り!
posted2017/05/08 11:30
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Naoya Sanuki
5月14日から始まる大相撲5月場所。
初日まで残り1週間、まず注目すべきは日一日(ひいちにち)復調している稀勢の里の動向だ。
先の3月場所、手負いながらもミラクルな逆転優勝を見せ、連覇を果たした新横綱の稀勢の里。13日目の日馬富士戦で傷めた左胸部と上腕付近の負傷は「加療1カ月」と診断され、以後、春巡業を全休して治療の日々を送っていた。
同時にひとり黙々と部屋の稽古場で、四股やすり足など下半身だけの稽古を“非公開”で再開。この雌伏の期間を、「自分と向き合えた日々だった」と、あくまでも稀勢の里は前向きに捉えていた。
初日を約2週間後に控えた番付発表会見で、現在の状況を問われると、「下半身は100パーセント」というものの、
「痛みはほとんどない。上向きで、朝起きて1日1日違います。あと2週間あるし、もちろん初日に合わせて“そのつもり”で調整していきます。大丈夫じゃないっすか?」
と、このときはまだ出場を明言するには至らなかった。
だが、「土俵に立ってこそ力士」との矜恃を誰よりも持つ。
“ラオウ”稀勢の里と“ケンシロウ”高安の物語。
過去、たった1日だけの休場を「わが生涯に一片の悔いあり」とでも言うように、その心の奥深くに刻み込んでいるのが稀勢の里だ。彼の辞書には、もはや「休場」の文字はなかった。翌日からは部屋の若い衆を相手に相撲を取り、6日は数多くの十両・幕内を擁す九重部屋へ、7日は同様の追手風部屋へと出稽古に。慎重に段階を経ながらも、5月場所への出場――いや「3連覇」を狙うべく、照準を合わせている。その「100パーセントの下半身」には、『北斗の拳』のもうひとりの主人公、孤高の覇者「ラオウ」の化粧まわしが、きりりと締められているのだろう。
そして、ラオウの弟である「ケンシロウ」の化粧まわしで、太刀持ちとして土俵に上がるのが、弟弟子の高安だ。
兄弟子の稀勢の里が明け渡してくれた「大関の座」に座るべく、この5月場所に挑む。