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韓国で1強状態、クラブW杯も出場。
全北現代の監督に学ぶ組織掌握術。 

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吉崎エイジーニョ

吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki

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photograph byYonhap/AFLO

posted2016/12/10 11:00

韓国で1強状態、クラブW杯も出場。全北現代の監督に学ぶ組織掌握術。<Number Web> photograph by Yonhap/AFLO

ACL決勝でUAEのアル・アインを破ってアジア王者となった全北現代モータース。チェ監督にとっては、2度目の戴冠となる。

「ベテランとは自己管理ができる選手という意味」

 当時のチームの平均年齢は27歳だった。

 全北とは、ベテランを軸に外国人、国内の有力な若手数名を絡めるチーム構成だともいえる。この“ベテラン好き”は韓国サッカー界でも大いに話題になっているところで、チェ・ガンヒ自身も昨年あるインタビューでこう言及している。

「ベテランとは、自己管理のできる選手という意味だ」

 そもそものきっかけは、現役時代運動量豊富なサイドバックとして代表でも鳴らしたチェが、不幸な引退を強いられたことによる。'92年、所属チームの監督だったチャ・ボングとトラブルを起こした結果、シューズを脱ぐ羽目になった。

 そんなチェの「ベテランを大事にする」という評判が国内外で轟くと、「安心してプレーできるクラブ」としてさらに良い選手が集まる――そういったサイクルも生まれつつある。

ベテランを使うと、よりチームを掌握しやすくなる。

 いっぽう、このスタイルは長期政権維持にも大きな影響を与えてきた。韓国のサッカー専門メディアで全北を10年来担当する記者は「選手の掌握力の高さに繋がっている」という。

「ベテランを大切にすると、監督は選手全体に対して小言を言わずに済むんです。ベテランに対してだけ言えばいい。すると監督を信じる年長者が、若手に監督の意見を伝え、チーム全体がまとまっていくという構図が出来上がる」

 長期政権のマンネリ解消にも、これが“効く”。

 最近、ちょっと気が緩んでるんじゃないか? そういった内容を監督がベテランに伝える。すると若手に対してベテランが「気持ちを入れ直そうぜ」と“喝”を入れるというのだ。

 そうやって「選手自らが動く」チーム像も出来ていく。もちろん、若手の中にはこのコミュニケーション方法を好まず、全北から離れる選手もいる。「もっと監督と直接コミュニケーションを取りたい」と。しかしそんなリスクを取ってでも、チェはスタイルを貫いている。

 儒教思想が日本よりも色濃く影響する韓国らしい話……ということかもしれない。

 いずれにせよ見るべき点は、“サッカークラブ”という組織を運営していくことにおいて、「自分なりのカラーや哲学を貫く」ことは重要だということだ。それを有さないリーダーはけっして長続きしない。この考え方そのものは、古今東西を問わない理ではないだろうか。

 世界大会ホスト国として、アジア代表の韓国チームを迎える――当然、悔しさだって感じるではないか! だとしたら、せめて、こういった長所を感じ取るのも観戦法のひとつのはずだ。

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