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川崎宗則、2日間だけのメジャー昇格。
「閃きたい」男は前を向き続ける。 

text by

ナガオ勝司

ナガオ勝司Katsushi Nagao

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photograph byGetty Images

posted2016/07/17 08:00

川崎宗則、2日間だけのメジャー昇格。「閃きたい」男は前を向き続ける。<Number Web> photograph by Getty Images

今回の昇格では1打席のみのチャンスで三ゴロ。今季通算では3打数1安打となった。

まるでマジシャンのようにチームを鼓舞する。

 7月9日が、その「またいつか」だった。カブスは6月30日からの8試合で7敗を喫してメジャー最高勝率から滑り落ち、神にもすがりたい状況に陥っていた。マドン監督は元々、クラブハウスに動物を連れてきて癒しを求めたり、マジシャンを呼んで気分転換をしたりといったことを実践してきた指揮官だ。彼にとっては、“カワサキ”というチームを鼓舞してくれる存在が必要だったのかも知れない。

「今日、連敗が止まったのは大きかった。でも、ホントは昨日の試合で連敗を止めたかったんだ」

 とは冒頭の焼き肉店で川崎の口から出てきた言葉である。それはきっと本音だろう。どんな役割だっていい。遊撃だけじゃなく、二塁だって三塁だってやってやる。外野もやれば、捕手だってやってやる。ベンチにいる時は声を張り上げて応援する。それで「カワサキがメジャーに来たから、連敗が止まった」と思われるのなら、最高なのだから。

「やっとけば良かった」という後悔はしたくないんだ。

 メジャーとマイナーの狭間で懸命に生き残っている川崎を見て、「日本のプロ野球に帰って来たら、そんな目に遭わなくても済むのに」と考える人であれば気の毒に感じるかも知れない。しかし当の本人が楽しんでいるのだから、それ以上言っても仕方がないだろう。

「去年のオフ、日本に帰ってもいいかなって思ったのは事実だよ。そういうことを言ってくれる人の気持ちは分かるし、とても感謝しているんです。でも、いろいろ考えている内に……と言っても、実はあんまり深く考えてないんだけど(笑)、やっぱりアメリカに来たいって思っちゃう。結局やるのは自分だからね。後になってから『やっとけば良かった』なんて後悔はしたくないんだ」

 失うものは何もない。あるのは得るものだけ。いつの間にか微妙な表情が消え、生き生きと目を輝かせた、いつものムネリン=川崎宗則がそこにいた。

「もっと、もっと閃きたいんだ。もっと野球がうまくなりたいから」

 肩肘を張って応援する気も起きないほどの、究極のポジティブ。前向きにならなければ生きてこられなかった野球選手の今後を、見届けて頂きたい。

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川崎宗則
シカゴ・カブス

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