オリンピックへの道BACK NUMBER
問題は選考方式そのものではない。
五輪女子マラソン選考問題の核心。
posted2016/02/14 10:40
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Yusuke Nakanishi/AFLO SPORT
「選手の気持ちが分からないんですよ」
大阪国際女子マラソンで優勝した福士加代子が名古屋ウィメンズマラソンへのエントリーを表明し、騒動になっているリオデジャネイロ五輪の代表選考。国際大会などで活躍していたある元競泳選手は、話している中で、ふと漏らした。その言葉には、福士に寄り添う心情があふれていた。
先に言えば、昨年発表されたリオデジャネイロ五輪代表の選考基準を遵守するなら、最後の選考レースの名古屋ウィメンズマラソンが残っている以上、現段階で福士に内定を出せないのはおかしいとは言えない。それでも、もやもやしたものが残るのはなぜか。
ふと、2000年を思い出す。競泳、マラソンともに、シドニー五輪代表選考を巡り、大揺れに揺れたときだ。
競泳は、それまでの選考方法を考えれば代表に選ばれると予想された千葉すずらが落選。千葉すずがスポーツ仲裁裁判所に提訴するに至った。
シドニー五輪マラソン選考でも、もめた前例が。
マラソンの騒動は長期間にわたった。経緯を簡単に振り返れば、前年の世界選手権銀メダルで市橋有里がいち早く内定。ところが冬の選考大会で好成績が相次いだ。東京国際女子マラソンで山口衛里が2時間22分12秒で優勝すれば、大阪国際女子マラソンで弘山晴美が2時間22分56秒で2位。優勝を逃したとは言え、相手はあのリディア・シモン。世界のトップランナーとゴール前までの接戦を演じたから評価は高かった。
だが、その後の名古屋国際女子マラソンには高橋尚子らが控えていた。山口、弘山あるいは高橋の誰かが落選せざるを得ない状況を迎え、「なぜ早々に1枠を決めたのか」という声が噴出する。日本オリンピック委員会(JOC)の会長からも「代表を6人に。現地入りしてから調子のいい3人を出してはどうか」と提案が出る事態となった。日本陸上競技連盟はそれを拒否。名古屋で高橋が優勝し、高橋と山口が選ばれたが、代表発表会見で、なぜ市橋に内定を出したのかを重点的に説明する羽目になった。当時の説明を要約すれば、オリンピックは記録ではなく勝負を争う場であるから、世界選手権での成績を重視したのだった。
話は戻る。すでに伊藤舞が昨年の世界選手権の成績で内定しての現在の状況は、2000年を連想させなくもない。