ゴルフPRESSBACK NUMBER
1度ならず2度のイップスを克服!
宮里藍、強靭なメンタルの謎。
posted2015/12/03 10:50
text by
南しずかShizuka Minami
photograph by
Shizuka Minami
時はさかのぼること約2年前、バハマでの開幕戦のことだ。
試合会場であるゴルフ場はビーチに隣接しており、選手らはふとした瞬間にコバルトブルーのカリブ海に目を向けることがあった。宮里藍も例外ではなく、グリーン上で同組の選手がプレーしている間に海の方を見ていた。その選手がパットを打ったのにも気付かず、しばらく海を見ていたため、視線をグリーン上に戻した時に「あれ、いつのまに?」という感じで、ちょっと慌てて歩き出しラインを読みにかかった。
ちょっと違和感を感じた。
普段の、いや特に、上位争いに絡んでいる時の宮里は自分の世界に入りこんで、黙々とプレーする。明らかに集中力が欠けているようだった。まあシーズンの初戦だからこれから調子を上げていくのだろうと楽観的に捉えていたが、自体は予想以上に深刻だった。
「(パットの)インパクトの瞬間が怖かったんです」
以前のパットのストロークと比べると「どうしてもそのストロークができなかった」と言う。
宮里は“イップス”になってしまっていたのだ。
世界ランク1位の武器だったパットが……。
イップスとは「精神的な原因で思い通りのプレーができなくなる症状」である。
宮里の場合、愛用のパターが壊れたので2013年の9月に新しいパターを試したところ、パットの感覚があわなくなってしまったことが原因だった。
パットを武器に世界ランク1位に上り詰めた宮里にとって“イップス”は致命傷だった。バーディチャンスにつけてもことごとくパットを外し、観客からため息がもれることが多々あった。
ショットとパットの精度の目安となる「パーオンしたホールでのパット数」は、5勝した時の'10年1.73(1位)から'14年1.88(138位)まで急降下した。
「キツかったですね。(症状に)向き合うのにエネルギーが必要ですし」
実は宮里がイップスになるのは初めてではない。米ツアー参戦当初、ドライバーを思うようにコントロールできなくなった時期があった。「(イップスは2回目だから)冷静に対処できた部分はありますが、ショットとパットではターゲットが違います。ショットはある程度ミスしてもフェアウェイにボールがあればいいですけど、パットは決めなきゃいけないので」
いつ治るのか目安も無いなかで、プロゴルファーである以上、試合に出続けて結果を出さないといけない。宮里がどんなプレッシャーの中で戦い続けていたのか想像を絶する。