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羽生結弦、新採点方式で究極の点数へ。
男子フィギュアの劇的進化を振り返る。 

text by

田村明子

田村明子Akiko Tamura

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photograph byAsami Enomoto

posted2015/12/01 16:00

羽生結弦、新採点方式で究極の点数へ。男子フィギュアの劇的進化を振り返る。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

「記録だけではなく、自分の演技をさらに超えられるようにしたい」とGPファイナルへの抱負を語っている羽生。

時代の先駆者となった高橋、そしてチャン。

「4回転か、表現も含めた全体の技術か」の議論がパタリと収まったのは、カナダのパトリック・チャンが4回転を跳ぶようになってからだった。

 それまで「4回転不要派」で、高いスケーティング技術などで世界の表彰台に上がってきたチャンだが、バンクーバーオリンピックの翌シーズン、突如として試合で4回転を跳ぶようになっていたのである。その理由の1つとして、チャンは2010年世界選手権で4回転フリップに挑んだ高橋大輔のことをあげた。

 豊かな表現力と巧みなステップで抜き出ていた高橋が、あと少しで4回転フリップを成功しそうになったのを目撃し、チャンは自分もスケーティング技術のみにあぐらをかいてはいられないと自覚を持ったのだろう。

羽生結弦は、前人未踏の世界へ。

 羽生はジュニアから上がってきた当時から、この高橋大輔とパトリック・チャンの背中を見て追いかけてきた選手だった。

 彼を含めて、現在の現役選手は、ほぼ全員が新採点方式で育ったスケーターだ。彼らの大多数は、先輩たちのようにキャリア半ばにして大きなルール変更に順応する苦しみを味わうことなくすんでいた。それだけに無駄のない、最先端のトレーニングを積んでくることができたのだろう。

 NHK杯のSP後の会見で、「SPで2度の4回転を入れることで失われるものはあると思うか」と聞かれた羽生は、「何もない、と思います」と誇らしげに答えた。確かに、今回の羽生のショパンSPは、欠けているものは何一つないプログラムだった。

 彼ほどのトランジション(ジャンプに入る前などの複雑なつなぎの動き)を持ち、スピードも、スピンの技術も申し分ない選手が、SPで2度、フリーで3度の4回転を入れる時代がやってきたのである。

 新採点方式が誕生して10年あまり。長所の1つはスコアの上限がないことと言われてきたこの採点方式で、驚くような新記録が出た。

 新採点方式の申し子ともいえる羽生結弦がいよいよ本格的に世界を牽引していく、新たな時代の始まりである。

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