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絶滅危惧種の魔球に居場所はあるか。
大家友和とナックル、最後の挑戦。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byKatsushi Nagao
posted2015/11/03 10:30
現在39歳だが、大家友和の向上心は全く衰えていない。日本プロ野球でその姿を再び見ることはできるだろうか。
なぜ日本でナックルボーラーは現れない?
ナックルボールはかつて、一度は挫折した選手たちの再生の一つの道だった。最初からナックルボーラーだったニークロ兄弟のような存在はともかく、ディッキーは本格派投手から、ウェイクフィールドは一塁手からの転向組である。
だが、日本のプロ野球では私の知る限り、今までそういう前例はない。
そもそも日本のプロ野球で、ナックルボーラーが主戦級の投手として何年も最前線で戦ったという記録がない。持ち球のひとつ、としてなら過去に何人か存在したようだが、全投球の8割以上がナックルという投手は、今も昔も存在しない。
『日本のバッターは、メジャーリーガーみたいにバットを振り回さず、ちょこんとバットに当ててくるから通用しない』
『1回からでも犠牲バントや盗塁を積極的に仕掛けてくる日本の野球には合わないし、日本のボールでは変化も少ないのでは?』
なぜ、日本ではナックルボーラーが現れないのかを関係者に問うと、そういう話を聞くことになる。その通りなのかも知れないが、それだけではないような気もする。
一芸を受け入れるアメリカの土壌。
アメリカのプロ野球には、日本のプロ野球の約3倍に該当する1チーム130人以上のファーム選手がいる。その中には球が速いだけが取り柄の投手、左の横手投げ、スイッチヒッター、足が速いだけの選手、守備だけがとてつもなく巧い選手、肩だけが強い選手、力だけはやたらとある選手などなど、一芸に秀でた選手たちが大勢いて、彼らには等しく「夢」や「希望」が与えられている。もちろん、ナックルボーラーもその範疇に入る。
「ナックルボーラーなんて通用しない」と最初から拒否することなく、「まあ難しいだろうけど、ちょっと試してみるか?」と考える寛容性。「今まで成功した前例がない」と拒絶するのではなく、「ダメならクビにすればいいんだし、とりあえず雇ってみれば?」と考えることのできる土壌。「夢」や「希望」といった言葉が、そこには間違いなく存在する。
メジャーリーグは大家にチャンスを与えた。米国の独立リーグも日本の独立リーグも、大家にチャンスを与えた。そこがどんな世界でも「夢」や「希望」があるのは単純に素晴らしい。願わくば日本のプロ野球にも、ナックルボーラーにチャンスを与えることのできる豊潤な土壌があればいいと思う。