野球クロスロードBACK NUMBER
チームの重圧を全部背負って打つ!
4番の主将・内川聖一が目覚めた夜。
posted2015/10/19 15:20
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Nanae Suzuki
それは、「俺に回せ」というより、「俺に回ってくるか」と腹を括ったような笑みだった。
ネクストバッターズサークルで柳田悠岐の打席を見守りながら、4番の内川聖一は「よし、行くぞ!」と強気のスイッチを入れ、打席に向かおうとしていた。
ロッテとのCSファイナルステージ第1戦。2-2の延長10回、ソフトバンクは1死一、三塁から柳田の四球によって満塁となり、サヨナラの絶好機を迎えていた。
「やっぱりきたか、と思いました。『チャンスで打てなかったら』という怖さもありましたけど、打ち勝つためにも無理に笑った」と自身が語っていたように、内川はチャンスを好意的に受け入れられるタイプではない。
その理由について内川は、「僕はね、基本、メンタルは強くないんですよ」と自嘲気味に笑いながら説明してくれたことがあった。
「チームから『内川ならやってくれるんじゃないか』と期待されているなかで、『よし、行くぞ!』と前向きに野球はやりたいですよ。チャンスとか嫌ですよ、本当は(苦笑)。緊張するし、『勘弁してくれよ』と思っていますから。サヨナラの場面で僕に回ってきた時なんて、『前の選手が決めてくれないかな?』と、ネクストで思っている自分がいますからね」
言うなれば、ネクストでは他力本願。自分に打席が回ってくれば背水なのだ。そこから意識的に退路を断つことによって、緊張感を極限まで押し上げるのが内川のスタンスである。中途半端に緊張感を抱えたままであれば凡打となり、意識せずとも自分のスイングができていれば達観できている証拠。理想の結果を得られることも多いという。
CSでの打席では後者だった。
“下克上”のロッテを倒した内川のバット。
カウント2ボール2ストライクからの6球目、ロッテの守護神・内竜也のウイニングショットである縦のスライダーをしぶとくすくい上げ、右中間に運んだ。サヨナラ打は、内川の「やるしかない」という強気の姿勢が緊張感に勝った証左でもあった。
この一打で、内川の打撃は波に乗った。
第2戦では1-1の同点で迎えた6回2死一、二塁のチャンスで殊勲打となる二塁打を放ち、日本シリーズ進出に王手をかけた第3戦でも、3回に先制打となる打球をレフトに弾き返した。ファイナルステージ3試合で12打数5安打。叩き出した4打点は、全て勝利に直結した。文句なしのMVP。ロッテ5年ぶりの“下克上”を阻止したのは内川のバットだと言っても大袈裟ではない活躍だった。