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亀田興毅が最後に望んだ“ボクシング”。
河野公平という対照的な男との最終戦。
posted2015/10/19 11:50
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Getty Images
河野公平と亀田興毅による日本人対決が10月16日(日本時間17日)、米国シカゴのUICパビリオンで行われ、WBA世界スーパーフライ級王者の河野が挑戦者2位の興毅を下し、2度目の防衛に成功した。試合後に興毅が引退を表明したことで、興味は俄然そちらに流れてしまったが、まずは試合の内容をレビューしてみたいと思う。
日本ボクシングコミッションが亀田ジムのライセンス更新を停止したことから米国開催が決まった今回の一戦。試合の予想はどちらかと言えば、この試合に4階級制覇をかける興毅の側に傾いていた。試合を放送したテレビ東京で解説を務めた2人の世界王者、河野のジムの先輩であるWBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志、そして後輩にあたる同ライトフライ級王者の田口良一でさえが、こう答えたくらいである。
「河野さんはサウスポーが苦手と聞いていたので、少し不利なのかなと思っていました」(田口)
「難しい予想ですが、6-4くらいで河野が不利かなと思っていましたね」(内山)
「いやらしく勝つ」興毅が有利と思われていたが……。
実際に興毅の最近のパフォーマンスをチェックすると、必ずしも河野が不利とは言えないはずなのだが、2人の世界王者だけでなく、多くのファンの頭の中に興毅の「いやらしく勝つ」というボクシングスタイルが焼き付いていたのだろう。
河野は抜群のスタミナと手数、そして強靭なハートを武器にするチャンピオンだが、決してハードパンチャーではないし、ものすごくディフェンスがいいというわけでもない。フィジカルの強い興毅に低い姿勢で亀のようにガードを固められたら、攻撃の糸口を見いだせなくなるのではないか。そして興毅がちょこちょこと出すパンチでポイントを重ね、軍配は小差、あるいは中差で興毅に上がる。そんなシナリオは確かにあり得るように思えた。
しかしふたを開けてみると、興毅は河野が嫌がるようなボクシングをしなかった。
思いのほか積極的に仕掛け、初回から河野との打ち合いに応じた。
サウスポーが苦手な選手は、オーソドックスよりもサウスポーのほうが距離が遠くなるので攻めづらいと感じる。しかし距離を詰めてしまえば、サウスポーのアドバンテージはなくなってしまう。どちらかと言えばファイタータイプの河野にとっては好都合だったのである。