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亀田興毅が最後に望んだ“ボクシング”。
河野公平という対照的な男との最終戦。
 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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posted2015/10/19 11:50

亀田興毅が最後に望んだ“ボクシング”。河野公平という対照的な男との最終戦。<Number Web> photograph by Getty Images

最近なアウトボクシングのイメージが強い興毅だったが、最後まで前に出続けていた。

最後くらいはボクシングらしいボクシングを……。

 だから最後くらいは、思い切り打ち合い、いわゆるボクシングらしいボクシング“拳闘”をして終わりたいと考えたのではないだろうか。

 偏った見方かもしれない。ただ、シカゴのリングで興毅は打たれても打たれてもあきらめず、最後まで意地を見せた。

 今日の興毅はがんばっているな――。

 そう感じたのも事実だった。

 結果的に興毅のラストファイトの相手を務めたのが河野だったというのは、何か思わせるところがある。日本人選手との対戦を避け、周囲の批判に耳を傾けずに世界のベルトをコレクトしていった興毅とは対照的に、河野は新人王戦から始まり、日本タイトル、東洋太平洋タイトルと地道にキャリアを積み上げていった選手だ。敗れたことだって何度もある。2010年から'11年にかけて3連敗したとき、多くの関係者が「河野は終わったな」と思ったものだった。

名もなきボクサーたちを励ました、河野の勝利。

 それでも河野はあきらめなかった。

 周囲から引退を勧められてもジムに通い続け、世界のベルトをやっとの思いで手にした。

 興毅には興毅の苦労があった。でも、河野のようなキャリアを積んできた選手にとって、興毅のような選手は絶対に負けたくない相手だったに違いない。「死にもの狂いでいって、これで死んだら仕方がない」。そう心に秘めて河野は試合に臨んだ。今回の一戦は決してハイレベルな内容ではなかったかもしれない。それでも河野の強く、熱い思いは、テレビを通してもシカゴのリングから日本まで伝わってきた。あるいは技術的、戦術的な要素以上に、それが勝敗を分けたポイントだったようにも思えるのだ。

 いま多くの世界チャンピオンたちが「強い選手と試合がしたい」と口をそろえる。チャンピオンだけでなく、日本ランカーでも、6回戦の選手でも、そう考えるボクサーは少なくない。

 今日この瞬間も後楽園ホールで血と汗と涙を流し続けるボクサーがいる。

 河野の勝利は、多くの名もなきボクサーたちを励ましたのではないだろうか。

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