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悲願のメダルを生んだ「先人の土台」。
谷井孝行の快挙は、競歩界の総力だ。 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2015/08/31 16:30

悲願のメダルを生んだ「先人の土台」。谷井孝行の快挙は、競歩界の総力だ。<Number Web> photograph by AFLO

自衛隊体育学校所属の谷井孝行は、ジュニア、高校生時代から世界で戦ってきた。6度目の世界陸上での初メダルは、日本競歩界の悲願であった。

マラソンの下降傾向も競歩の強化を後押しした?

 その中で、ぽつぽつと国際大会での成績が出るなどして、ようやく環境面の整備に手がつけられるようになった。2001年に高校総体に採用されたのもその成果だし、2004年からはイタリアでの合宿も行なわれるようになった。

 2007年に大阪での世界選手権を控え、強化が急務となっていたことも大きい。また、マラソンの下降傾向により、競歩に目が向くようになったのも競技としては追い風だった。アフリカ勢が席巻するマラソンよりも、世界と戦うチャンスはあるとも言えた。

 こうして少しずつ環境が整えられつつある中で、「ソフト」の面でも、変化がもたらされた。

 2005年から約1年間、今村は日本オリンピック委員会のスポーツ指導者海外研修事業により、イタリアで生活を送りながら競歩について幅広く学んだ。イタリアにおける競歩の競技環境、ジュニアからシニアまでの育成・強化システム。中でも大きかったのはトレーニング方法を持ち帰ったことだっただろう。

感覚頼りのトレーニングを廃し、データを利用。

 のちに今村は研修についての報告書も記しているが、かの地では心拍計など測定機器を練習に活用することで科学的な分析に取り組んでいること、それを練習メニューにフィードバックしていることなどを知った。また、イタリアナショナルチームの高地合宿などにも帯同し、どのようなスケジュールと内容の練習をしているのかなども知った。

 海外の指導法を学ぶ中で、日本の指導のあり方が、コーチの感性に頼りがちであることにも気づいた。どれくらいの強度のトレーニングを行なうかもまた、感覚的に決められることが珍しくはなかった。

 感覚に頼るのではなく医科学的なデータを活用し、さまざまな専門スタッフと連携する必要を実感。さらにコーチ間の連携を強めるなどして強化の一体化を進めることで日本も対抗できると考えた。

 今日では、競歩はシニアのトップクラスの選手とその下のカテゴリーの選手が一緒にトレーニングする機会も増えた。選手たちが合宿をする際、以前なら同じ合宿中にもかかわらず、所属先ごとに練習しているかのような部分もあったが、今では一つのチームとして、互いの意見交換なども行なわれるようになっている。トレーニング自体、かつてとは異なり、よりデータや理論を駆使して実施されている。そこにも、今村の持ち帰った財産が活用されているのである。

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